投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

WHOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が地球的規模で流行することを予測し、全世界にコロナ対策(各国、各地域で交通を遮断するなどの対応)を講じるように呼び掛けています。
医学の研究分野の中には、病気の流行予測や流行状況を明らかにする研究分野(主に疫学研究分野)があります。
病気の流行とは、特定の集団や地域で比較的限定された期間内に通常予測される頻度を超えて同一疾患が多発することを言います。通常は、感染性疾患について「流行している」などと用いますが、最近では悪性新生物(がん)や心臓病などいわゆる生活習慣病がある地域内で多発している場合などにも使われます。

流行状況はその規模によって大流行(一般的に決まりもなく使われる)、汎流行(パンデミック)、地方病的流行(エンデミック)などに分けられて表現されます。ある疾患が流行しているか否かは平常時の発生状況が目安となりますが、新型感染症の流行は前例となる目安がありません。一般的には流行が始まってから認識され、その後に対策を計画するので遅れやすいのです。流行の対策を立案するためには、流行の予測がある程度分かっていることが必要です。急性感染症の場合には、一般的に考えられている流行モデルがあります。それは発症した患者の急激な増加をもって流行が始まり、徐々にあるいは急激に増加し、やがてピークを向えます。それが過ぎると徐々に減少傾向となり、発症している患者が治癒することによって終息を向えます。これらの経過を明らかにするためには種々の流行関連要因、すなわち初期発生患者数、感受性保有者数(免疫のない人)、減染期間(潜伏期間も含む)、感染経路、有効接触者数(発症2~3日前から判明すると良いがなかなか困難なことが多い)などを変数として用い、解析する事で明らかにすることができます。
また流行状況を把握するためには、病原体の変異程度、感染源密度の変化、感染機会の状態、そして感受性者密度の変化などを迅速かつ出来るだけ正確に調査などを行って明らかにすることが必要です。

そして終息を予測するためには、感受性者を減らすためのワクチンの開発、ワクチン接種者数または率、患者隔離状況、治療薬投与状況などの要因が関係します。
その他に、感染症には一般的に流行の周期があるといわれます。とくに呼吸器感染症(とくにインフルエンザなど)は気温や湿度などの自然気象要因の変化が流行に影響し、冬期に多発し夏期には流行しなくなるといわれます。しかしコロナウイルスは構造に特徴があり、ウイルスがエンベロープという膜につつまれているため、気候変動などの環境変化にも影響されず、夏期にも生存し流行を続けるのではないかといわれています。

また、地球的規模の流行(パンデミック)ですので、北半球が夏期になっても南半球は冬期になります。長期(永年)変動、不規則変動を繰り返しながら流行が長期間続き、感染源として地球的規模で常在すると予測されているので終息宣言は出しにくいと思います。
流行を再発させないため、各企業においては、たとえ流行が治まったように見えても、特に海外との交流の多い企業においては、海外派遣労働者の健診を充実しておくこと、患者や死者の多発している国からの外国人労働者の日常の健康管理を積極的に実行しておくことが重要と思います。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルス感染症の拡大に備えるため、改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づき緊急事態宣言が発出されました。感染が全国的かつ急速に蔓延し、生活や経済に大きな影響を与える恐れがあるので区域と期間を定めて宣言されるものです。通常は流行の予測が可能な感染性疾患であれば科学的根拠に基づいた宣言が出せるのですが、新型のため国民が理解できるように説明することができませんので、国民に不安と不信が広がります。感染症について、多くの人が理解することが重要です。

病気の流行とは、一般的に特定の集団(地域や学校などの施設及び会社など)で、比較的限定された期間内に、通常の頻度を超えて同一疾患が多発することをいいます。流行はその規模により大流行(一国のほぼ全域にわたる場合)、パンデミック(世界的大流行)、エンデミック(局地的に限局して長期間流行がつづく場合)と呼ばれます。新型コロナウイルス感染は世界的大流行としてWHOよりパンデミック宣言が出され、全世界で交通網を遮断するなどの対策がとられています。

感染症の流行を予測するためには、病原体の変異程度(コロナウイルスはRNAウイルスなので変異しやすい)、感染源密度の変化、感染機会や感受性者密度の変化など関連要因が分からないと科学的に解析できません。また、流行の終息を予測をするためには感染源をなくすことができるか、ワクチンなどを接種して感受性者を少なくできるか、発病しても持効薬があって治療できるかなど分かっていないと解析できませんが、新型ですのでどの条件も分っていません。

唯一の対策は集団免疫(ある集団に病原体が侵入した場合、集団の構成員の約70%に免疫ができることや、感染して自然に治癒することによって集団に抗体ができること)の獲得を期待することになります。

またワクチンや特効薬ができるまでオーバーシュート(感染爆発)をおこさないことや重症にならない対策をとることが重要です。

やっかいなのは、コロナウイルス感染症は軽症者が多いので無自覚が多く、感染しても発症までの期間(いわゆる潜伏期間)が一週間以上と長い為、感染症拡大を防止するためには3密と言われる密閉空間・密集場所・密接場面(近接の会話)を少しでも少なくすることが必要です。

コロナウイルスの感染を確定するためには、疑いのある者の口や鼻の粘液をとり、この検体を加熱・変性して増幅し、コロナウイルス遺伝子を確認することによって感染を決定します。増幅過程などに検査時間を要するため、多くの検体数の検査をするのが難しいのです。このため検査時間が比較的短い抗体(外界から人体内に侵入した病原体などの抗原に対して患者の体内で免疫性を獲得し、特異的に排除する生物活性を持ったたんぱく)の検査が行われています。しかし、新型なので抗体の特異度が低いため、陽性か陰性かの判定が不正確になりやすく、たとえ陽性でも症状を診て軽症かあるいは重症かを判定するなど慎重な対応が必要です。

事業場の従業員に陽性と判定された感染者が確認されると、患者本人はたとえ軽症であっても免疫のない他人に感染させることがあるので隔離されます。また、濃厚接触者にもPCR検査を受けてもらい感染の有無の確認をしてもらう必要があります。企業においては業務自粛、生産中止、工場閉鎖、休業などが必要となります。これに伴い労働者の解雇や企業の倒産などの社会的影響がでます。流行期にはみんなで3密を避ける行動が必要です。

このような状況にならないために従業員全員に感染症(とくにウイルス感染)についての知識と理解を深めておくため、産業医や保健師の健康講話などを聴き、日常の対処方法を身に付けておくことが必要です。たとえ感染のピークがすぎても患者発生は、なだらかに続きます。そして健常者も含めて、人の体内にウイルスは常在しますので気をゆるめることなくみんなでがんばって対応しましょう。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

世界保健機関(WHO=国連の保健衛生に関する専門機関として本部をジュネーブにおいて活動し、約200弱の加盟国がある。)が世界で流行している新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的流行)として緊急事態宣言を出しています。これは新型感染症(一般的に国民が当該感染症に免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速に蔓延し生命、健康に重大な影響を与える感染症)であるため健康影響のみならず、人の移動制限や交通遮断そして経済活動の抑制が対策として必要となり、社会的影響が大きくなることを意味しています。各企業においても従業員の健康を守ることと同時に、経営の継続を可能にする対策をたてておかなくてはなりません。
そのためには事業者としても感染症対策の基礎的知識を理解し、労働者へは流行時だけではなく日頃より、健康づくりとして体力や抵抗力をつけておく等の指導や支援をしておくことが必要です。

一般的に病原微生物であるウイルスは、生体内(人間等の細胞内)で生存増殖します。コロナウイルスは『RNAウイルス』と言われ、変異しやすいことと、エンベロープという脂質の膜に覆われている強いウイルスではありますが、アルコールで容易にこの膜が破られてウイルスが死滅する性質も持ち合わせています。このような性質をもったウイルスは人間の細胞内に入って分裂・増殖を繰り返し、病原性を発生します。一般的に病原性は弱いので日和見感染とも言われますが、人から人へ伝搬を繰り返すと毒性がより強くなることもあります。
コロナウイルスは新種ですから人類に免疫力がないことと、感染後に発症するまでの潜伏期間が長く、咳や痰等の症状がなくても、レントゲンを撮ってみると肺炎の所見がみつかり、その後に発熱したり、呼吸困難をおこし、死の転帰に至る重篤な経緯をたどるやっかいな病原体です。

また、コロナウイルスは、夏期に入り気温が上昇し、雨期になり湿度が上がる頃には活動が低下するインフルエンザウイルス等とは異なり、エンベロープなどがあり、夏期を超えて生存し続けるのではないかと心配されています。

感染対策についてですが、このコロナウイルスは新発生したウイルスのため、未だ特効薬は開発途中にあり、感染源対策は困難で、現段階で撲滅は出来ません。

次に感染経路対策について、接触感染(感染源に接触する)対策としては、もちろん感染者に接触しないことが重要ですが、そのほかに病原体で汚染したタオル、器物等に触らないことが大切です。
飛沫感染対策は、感染者と至近距離で対話することや、感染者から排出された飛沫が空気中で浮遊しておりその粒子を吸入する、或いは眼などの粘膜に吸着する状況を避けることです。
感受性者対策は、個人個人が免疫力をつける方法がありますが、まだ抗体をつけるためのワクチンが開発されていません。当面開発困難なため、一般的な健康づくりとして行っている栄養・休養を十分とることと、運動をして体力をつけることが必要な対策となります。
感染症対策は感染者の流行の状況が明らかになってから確立することが多く、一般的には、治療方法がないか不充分なことが多いので、国民に集団免疫(全体の70%以上の人に抗体ができる状態)ができるまで耐えるしかありません。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)が拡大流行しています。
世界保健機関(WHO)の発表によると、パンデミック(世界的大流行)になる可能性を示唆しています。

平成11年に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法という)が策定され、日本国内の感染症対策が行われてきました。
わが国では1970年以降、エボラ出血熱などの新興感染症と近い将来克服されると考えられてきた結核、マラリア等の再興感染症が流行し、脅威を与えていることに加え、医学・医療の進歩、衛生水準の向上、人権尊重の考え方の普及、外国に工場を建設する等による日本企業の海外進出、そして、そこでの生産が活発となり、物や人の海外との交流が盛んになったことや観光事業のインバウンド化による外国人旅行者の増加など、今までとは異なる社会情勢に対応するため、感染症対策をその都度抜本的に見直し感染症法を改正してきました。

この度、令和221日から新型コロナウイルス感染症は指定感染症(既に感染症に指定されている13類の感染症に含まれてなく、13類感染症に準じた対応の必要性のある感染症を、政令で1年間を限定して指定すること。) として指定されましたが、コロナウイルスはRNAウイルスであるため、季節型インフルエンザとは表面の抗原が異なり変異しやすく、潜伏期が長いため感染経路が特定しにくく複雑です。

たとえPCR法で感染が陽性と判定されても、特効薬がないため、今までの患者隔離等の封じ込め対策では感染の拡大を止めることは困難です。
特に検疫感染症と同様に水際作戦を実施し、感染患者や疑患者の日本国内上陸を阻止することは、長い潜伏期間中の健康キャリアがいるためチェックが困難です。今回の大型クルーズ船の乗員・乗客の船内封じ込めは、対象者が多人数で検疫が困難である中、潜伏期間中や発症していない陰性者も多かったため、一週間以上の全員の船内隔離は無理なことが多かったと思います。

確認された感染者に対しては、医療機関に入院しても特効薬がないので、対症療法を行うことで経過をみながら治療を行うしかありません。また、今のPCR法では陰性と判定されてもコロナウイルスの保有の有無を判断することは困難ですので、今までの感染症対策の方法では対応が難しい面があります。今後、感染の流行を阻止するためには、一人一人が健康管理をする必要があります。とりあえず栄養・休養・そして免疫力が向上する適切な運動などの健康行動が必須です。

各企業においては、接触感染対策として、出社時を含め一日数回の手洗い、アルコール製剤による机等の拭き取り、手指衛生を徹底し、出勤時の満員電車を避けるための時差出勤、フレックスタイム制やテレワークの導入など会社としての取組みが必要です。また、飛沫感染対策としては、感染症状のある人・疑いのある人の出勤停止措置(有給扱いが望ましい)、社員全員がマスクを着用し、健康キャリアからの感染防止と自分の咳による他人への感染防止の対策を講ずることが重要であります。
空気感染対策(エアロゾル対策)は、空気中に浮遊する病原体を吸入することで起こる感染の予防方法ですが、これは個人の免疫をつけることしか予防方法がありません。新型ウイルスのため、まだ有効なワクチンは開発されていませんので、せめて、工場や事務所の排気を十分に行い、空気が停留する閉鎖空間で仕事をしないようにすることです。

いずれにしても、今回のコロナウイルス流行スタイルは過去の国内感染症の流行と異なる(前例がない)ため、各事業場に於いては産業医等から専門的知識を得て、適切な価値観を持ち、多様性のある(画一でない)対策をとられることが重要と思われます。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

「働き方改革」が社会で実践され、少しずつ企業において定着しつつあります。

今回の改革は日本で今日までの伝統的に継続されてきた労働環境において、労働者の減少、雇用環境及び社会情勢の変化に応じて改善しなければならない点をとりあげています。
この改革は労働時間の短縮(残業規制)による生産性の低下、長い目で見る(経験による)人材確保と熟練作業者の養成が困難となることや、無期ではなく有期或いは短期雇用労働者の増加など、労働者の確保が難しくなる事や企業経営に影響を与えることが予想されますが、それを踏まえて事業主側に理解と改善を求める内容になっています。

この改革により労働者のライフプランにも影響を与えることになります。かつては日本の社会文化であった教育機関卒業後、その学歴をもとに「終身雇用」として一括採用され、採用後も年功序列で処遇されて昇進し、定年まで終身雇用され、退職後は年金で老後生活をゆったりと楽しむ生活設計が一般的でした。

しかし変化の著しい現代では、たとえば製造業において技術革新が進歩し、生産工程では流れ作業で製品が完成するようになり、一人一人の労働者は流れ作業の中で歯車として一部分の作業のみの単純作業を繰り返すこと等によりテクノストレスが発生し、いわゆる熟練労働者の存続が減少傾向になっています。
そして、IT革命により、単純作業は人間よりもロボットが正確に疲労しないで実行し、複雑な作業ですら人間より上手にこなせるようになり、現在では、人間はロボット作業の補助作業をする生産工程が進んでいます。

このことは、労働者の質を問わなくなり、十分な教育を受けていない外国人労働者を訓練もしないまま生産工程に従事することを可能にしています。
この傾向はさらに続行すると考えられ、「働き過ぎの防止」「ワークライフバランスの実践」「多様で柔軟な働き方の実現」を目指した改革だけでは、新たな問題・矛盾が発生することをあらかじめ危惧しておかなければなりません。

従来からの親方日の丸という日本古来の伝統的な企業モラルに対して、新自由主義が台頭したことによる成果主義の評価による人事考課の採用、熟練工養成よりもヘットハンティングによる既成の優秀な人材確保、IT技術、ロボット技術等を取り入れた生産工程の増加、生産の自動化など、人事管理や生産現場の改革に伴い、労働の質と労働者の働き方をも変化していますので、今までの労働時間をもとにした時間管理では不都合が生ずるので、労働時間法制のあり方を考え直す必要が出てきています。

産業保健分野においては、疲労しないロボットが生産の主体となり、それをサポートする人間の健康管理を新たに構築する時代を迎えています。