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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「若手育成とアレ」

 

阪神タイガースの岡田監督は、1年間、優勝という言葉の代わりに “アレ” を使い続け、大きな話題となった。その阪神が2005年以来18年ぶり6回目の優勝を果たした。“アレ” を使い続けたのは、優勝を意識し過ぎないように、つまり過度のプレッシャーを感じることなく、のびのびと野球を楽しんでもらいたいという配慮であろう。岡田氏は、阪神、オリックスで監督を歴任しているが、オリックスでは2軍助監督、阪神では2軍監督も経験するなど、若手育成の経験も長い。その経験を踏まえて、2018年のインタビューでは、長所を伸ばすことに主眼を置いた若手育成を行っていると語った。従来、長所を伸ばすこと以上に、短所を補う指導が主流だったが、時代と共に選手の気質が変化するのに合わせ、指導者もまた接し方を変えていく必要があると力説していた。また、今季の阪神の四球の大幅増も話題となった。岡田監督は、「ボール球をふるな」として四球の査定ポイント(給与に反映される)評価をアップさせた。それが球界一位の452四球につながった。「ボール球をふるな」は投球された球をよく見ることであり、野球の基本中の基本である。高度な野球技術を重視したのではなく、野球の基本を重視したのである。

厚生労働省による「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率」の調査(2021年)によると、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は高卒就職者で36.9%、大卒就職者で31.2%にのぼる。労働人口の減少が見込まれている今、若手の人材育成、定着率の向上は多くの企業にとって喫緊の課題となっている。若手育成に関して、阪神の成功例はおおいに参考になるだろう。ただ、言うはやすく行うは難しである。

私も、過度なプレッシャーをかけないように「固く考えずに、“50%”ぐらいの力で取り組んだら」と若い人に助言した。するとすぐに「“30%”ではいけませんか。」と返された。“アレ”はなかなか難しい。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「最も暑い夏」

 

気象庁によると、今年の6月から8月まで3カ月間の気象の記録で、夏の平均気温が過去126年で最も暑くなったことが分かった。平年と比べて1.76℃高くなり、各地で最高気温35℃以上の「猛暑日」の日数が過去最多を更新した。さらに、最高気温37℃以上の体温越えの日も頻繁にみられるようになった。

20年ほど前に鳥取大学乾燥地研究センターの人工気候室を用いて高温低湿度環境における自覚症状や発汗について調べていた。当時、サウジアラビアで国外からの巡礼者に熱中症が多発してその対策が課題だったことや、乾燥地で活動するセンターの学生や研究者の熱中症の予防という観点から乾燥地保健として行っていた研究である。人の感じる暑さの感覚や発汗を気温37℃で相対湿度20%と40%で比較した。気温37℃相対湿度20%は、乾燥地を想定したものである。湿度40%では、かなり暑く感じ活動しづらいと感じる環境であったが、湿度20%では、暑さはそれほど感じず、活動可能な環境であった。それは、高温でも低湿度なので、汗がすぐに蒸発して気化熱で効率よく体温上昇が抑制されるためであろう。しかし、高温下で暑さを感じないことは、要注意である。高湿度環境の国の人々が高温乾燥地の活動中多量の汗をかいても、発汗した自覚に乏しいので、水分補給が遅れ、脱水症さらに熱中症になりやすいと考えた。そのため、乾燥地での熱中症の予防対策として、定期的な塩分を含んだ水分補給例えば、30分から1時間おきにコップ一杯程度摂取することが重要であるとまとめた。

今年の山陰は、最高気温37℃以上湿度50~60%前後の日が続いたが、暑さ指数WBGT値に簡便法で換算するとWBGT値32~34となり日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」の「危険」に該当する。屋外での労働、スポーツや外出をひかえることが推奨される暑熱環境である。ちなみに気温37℃湿度20%、湿度40%のWBGT換算値は、それぞれ、WBGT値27(警戒)、30(厳重警戒)である。湿度が変わると暑さの感覚だけでなく熱中症の危険度も大きく変わる。異常高温下で湿度が高くなると、多量の汗をかいても気化しにくいので、体温上昇を抑えることが困難となる。今後も暑い夏が進行するとすれば、屋外活動の厳密な制限や対暑熱保護服の着用の義務化をはじめ社会全体で様々の対応が必要になるだろう。

先に述べた実験では、当初実験条件として気温37℃相対湿度20%、40%、60%の比較を検討した。結局60%は設定しなかったが、その理由は、気温37℃相対湿度60%は安全性の懸念があったこと、稀な特殊環境で日常的な環境として想定できなかったことである。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「日本人の平均寿命」

 

厚生労働省は7月28日、2022年の日本人の平均寿命を発表しました。日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳でした。2021年から男性は0.42歳、女性は0.49歳、男女ともに2年連続で短くなりました。前年からの下がり幅はいずれも過去最大となりました。2022年はオミクロン株が広がり、約4万7600人が死亡して平均寿命を押し下げたようです。ただ、国別の比較では、女性は1985年以来連続で世界1位、男性はスイス、スウェーデン、オーストラリアに次いで4位ですが、男女合わせると平均寿命が世界一長いことには変わりありません。

一方、平均寿命に関して、近いうちに日本はスペインなどの国々に追い抜かれるのではないかという予測があります。その要因として、日本人男性における、高血圧、糖尿病などの生活習慣病と深く関連する肥満の増加があげられています。国民栄養調査によると、Body Mass Index(BMI; 体重(kg)÷身長(m)÷身長 (m))が 25 以上の人を肥満と定義した場合、昭和55年から令和元年までに、日本人男性の肥満者の割合が20%弱から33%へと増加していました。この原因として、食生活の変化に加え、仕事の身体活動の低下や車への依存が推測されています。

さらに、子供の貧困の問題があります。子どもの貧困率は、1980年代から上昇傾向にあり、今日では実に7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされ、OECD加盟国の中で最悪の水準です。ある調査によると、低収入世帯では朝食を食べていない子どもが、非低収入世帯に比べて1.8倍高いという結果がしめされています。また、インスタント食やコンビニ弁当ばかりの食事で栄養摂取の偏りがあるようです。「子ども時代の貧困は50年後の健康を損なう」と言われています。長寿国日本として、このような状況をそのままにしてよいはずはありません。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「異次元の少子化対策」

 

ある世論調査では、政府の掲げる「異次元の少子化対策」に対して、働く女性の60%が期待しないと回答し、マスコミからは昭和的価値観に失望と評されている。
多くの先進国で少子化対策が課題となっている。その中で、スウェーデンの少子化対策は、成功例としてよく紹介される。1983年に合計特殊出生率が1.6まで低下した後、 様々な社会サービスを充実させて、 1990年代に合計特殊出生率が2.0を超えるまで回復した。1992年、私は振動障害の研究のためストックホルムに滞在してので、たくさんの乳母車が往来する状況を目の当たりにした。
男性の8割以上が利用する育児休業制度、16歳未満児まで支給され多子の割り増しもある所得制限のない児童手当、充実した乳幼児の保育サービス、小学校低学年の8 割以上が利用する学童保育などの社会サービスは世界的に知られている。
スウェーデンの少子化対策は、歴史的背景のあるジェンダー・家族政策が基盤にあり、男女機会均等に始まり、女性の結婚、妊娠、出産、育児に関する障壁からの解放に努めたことに特徴があると言われている。

世界経済フォーラムによる日本のジェンダーギャップ指数(「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す指標)は、2023年0.647で146カ国中125位だった。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国より低い結果となった。ちなみに、スウェーデンは5位である。

2006年の第1回は0.645で、115カ国中80位だったが、以降順位は下落し、過去最低となった。他国が格差解消の取り組みを進める一方、日本は取り残されている状況だ。また、日本は「経済」「政治」分野が極端に低いといわれている。少子化対策が最重要課題であり、待ったなしであることに異論はない。しかし、この順位で、「異次元の少子化対策」と称するはどうなのだろう。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

早くも梅雨入り 豪雨に注意

 

5月29日、中国地方は昨年よりも13日早く梅雨入りとなりました。梅雨は湿気が多く、多くの人にとって気が重くなる季節です。そんな梅雨の日は、着心地のいいルームウェアを用意、コーヒーで幸せなひととき、ツボ押しで日頃の疲れをとろう、本を読んでリラックス、温泉施設でまったり、映画鑑賞を満喫など梅雨の時期の楽しい過ごし方がインターネットで紹介されています。

この時期の雨は、田植え後の稲(苗)の成長を促す“恵みの雨”で、梅雨は自然界で必要不可欠なものと考えられています。梅雨入り宣言は、湿気が多く、気が重くなる季節の到来を知らせるものではなく、稲の成長を促す“恵みの雨”の到来を知らせるものでしょう。

しかし、近年、梅雨時期の“集中豪雨”による災害が目立つようになりました。中国地方でいえば、広島県から岡山県にかけて甚大な被害をもたらした平成30年7月の西日本豪雨が思い起こされます。個人的にもゲリラ豪雨に遭遇して車が立ち往生したこともあり、その怖さを身近に感じます。気象庁は、梅雨入りの発表と同時に大雨による災害への備えの呼びかけをしています。最近では気象庁から豪雨をもたらすとされる線状降水帯の予測が行われるようになりました。梅雨入りは、”豪雨に注意“の知らせでもあります。