投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

春の熱中症

 

今春5月、ゴールデンウイークを含めて高温との予報で、春の熱中症が懸念されています。夏の猛暑で知られる埼玉県は、4月28日に早くも熱中症予防の注意喚起を行っています。

春の熱中症に注意しましょう~5つのポイントで熱中症予防~

(1)  高齢者は上手にエアコンを
(2)  暑くなる日は要注意
(3)  水分はこまめに補給
(4)「おかしい!?」と思ったら病院へ
(5)  周りの人にも気配りを

埼玉県健康長寿課ホームページ「熱中症予防5つのポイント」

 

大学の教員時代、春の熱中症について、大学院生と調査・研究したことがあるのでその一端を紹介しましょう。鳥取県の2017年4月から9月までの熱中症による救急搬送データ(熱中症を全数把握するのは困難ですが、発生状況のひとつの指標として救急搬送数が用いられます。)と気象データを組み合わせて分析したものです。
救急搬送データを用いた4月から9月の間に405人の熱中症による救急搬送がありました。搬送数は7月(199人)が最多で、次いで8月(134人)、5月(33人)と続きました。4月から5月の春に、真夏日(最高気温30℃以上)の熱中症による救急搬送リスクが他の日(最高気温30℃未満)より約4倍大きいことがわかりました。この結果は、体が暑さになれていない春期30℃以上になると、熱中症による救急搬送のリスクが急激に高まることを示しています。

近年、4月から5月の真夏日の日数が増加傾向にあり、夏だけでなく春の熱中症に対する注意喚起も必要であるといえるでしょう。年代別にみると、救急搬送の3分の2は高齢者でした。高齢者は、汗をかきにくく、暑さやのどの渇きを感じにくい傾向があるためと考えられています。熱中症対策においては、高齢者への配慮も重要なポイントです。
また、5月8日以降、新型コロナの感染症法上の位置づけが変更され、行動様式が大きく変化することが予想されます。今年はこの影響も考慮する必要があるでしょう。

 


投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

憧れのメジャーリーグ

 

WBCの日本対メキシコ戦は、春分の日の午前中にテレビ放映されたので、部屋の片づけをしながら観戦した。佐々木投手の160キロ越えの速球にはしびれたが、メキシコに先制され劣勢が続いた。7回に、同点に追いついたが、また、8回に2点を追加され、もうだめかと思っていたら、最後の最後にあの村上(神)様の逆点サヨナラ打で、決勝へ進出。そして、本場アメリカのメジャーリーガーたちに臆することなく、14年ぶりの優勝である。野球の試合で興奮したのは、何年ぶりだろう。

WBCとはいいながら参加選手の多くはメジャーリーグに所属しているので、メジャーリーグ内での出身国別対抗戦という見方もある。それほど野球においてはメジャーリーグの存在が大きく、メジャーリーグは世界中の野球を志す人の憧れである。メジャーリーグチームとの親善試合やメジャーリーグのTV放映などで、日本のファンも多い。私も大学生のころ、世界最強のビッグ・レッド・マシンことシンシナティレッズの来日(1978年)に合わせた特集記事を読み、TV放映などで興味を持った。ピートローズ、ジョニーベンチ、ジョー・モーガン、ジョージ・フォスターなどの個性的な選手集団に魅せられた。週刊ベースボールに掲載されていた大リーグ特集記事を愛読していた。その中でメサースミス事件が大々的に特集されていたのを記憶している。調べてみると、ドジャースの投手メサースミスが1975年を未契約のままプレーし19勝をあげ、自由な身分であると主張して裁判となった事例で、フリーエージェント制度(6年以上メジャーリーグでプレーすれば、どの球団とも自由に交渉できる)が生まれるきっかけとなった事例だ。1880年代より球団、オーナーが有する権力として、保留規制というものがあった。保留規制は、球団が選手の賃金と労働条件を管理下に置き球団の許可なく他の球団に移ることができない‘奴隷規制’ともいわれていた規制です。これまでもたびたび訴訟となっていたが、その壁を打ち破ることはできなかったようです。メサースミス事件以降、この保留規制は廃棄、フリーエージェント制度が導入され、選手の年俸が高騰するようになった。その後、年俸高騰に対して球団側は対抗措置をとるなど、球団側と選手側との対立が激化し、1994-5年には、年俸の総額上限規制の問題で230日を超すプロスポーツ界で最長のストライキが発生した。メジャーリーグ存亡の危機と言われたが、この間メジャーリーガーの待遇改善はすすんでいったようだ。最近の労使交渉では、最低保証年俸が争点で、2022年70万ドル、2023年72万ドルと引き上げられている。尚、この労使交渉の基礎を作ったメジャーリーグ選手組合の初代委員長マービン・ミラーは、野球選手ではないが野球殿堂入りを果たしている。

メジャーリーガーの待遇改善の象徴として手厚いメジャーリーグ選手年金制度が知られている。引退後破産するメジャーリーガーが多かったことがその背景にあるといわれている。この年金制度は世界の野球選手がメジャーリーグに憧れる理由のひとつにもなっている。大谷選手の高校時代の夢は、WBCで優勝することとメジャーリーガーになりメジャーリーグ選手年金を満額もらうことだと紹介されている。


投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

世界終末時計

 

世界終末時計は、アメリカ合衆国の雑誌『原子力科学者会報』 の1947年から掲載されているが表紙絵の時計である。核戦争などによる人類の絶滅を『午前0時』とし、その終末までの残り時間を「0時まであと何分」という形で象徴的に示している。2023年1月24日(火)(米国時間),2023年の終末時計が発表された。原子力科学者会報では終末までの残り時間を「1分40秒」から「1分30秒」に改められた。過去76年間で最も破滅に近づいたことになる。最近の世界終末時計では、核問題だけでなく地球温暖化などの地球環境破壊も加味されているようだ。

1949年ソビエト連邦が核実験に成功し、核兵器の開発競争が始まったことで世界終末時計は3分前となり、1953年アメリカ合衆国とソ連が水爆実験に成功したときに世界終末時計は2分前と一気に時間は進んだ。1953年の水爆実験は社会に衝撃を与えたようで、水爆実験で蘇った怪獣がニューヨークの街を破壊していくという特撮怪獣映画『原子怪獣現わる』がアメリカで公開され、日本では放射線を吐き散らしてあらゆるものを破壊する『ゴジラ』が公開され大ヒットした。怪獣ゴジラは人間にとっての恐怖の対象、「核の落とし子」として描かれた。このような核問題を扱った映画が次々と制作・公開されヒットした。
私が記憶しているのは猿が支配する惑星が実は核戦争後の地球だったいう衝撃的なラストシーンで有名な「猿の惑星」(1968年)である。中学1年生の時、友達といっしょに観に行った。精密な猿のメイキャップが話題となったSF娯楽大作で、十分に楽しめた。劇中の知的な研究職(人間の研究をしているらしい)のメス猿が「私たちにくらべて人間は野蛮で、知能が低いのよ。」と語っている場面は今も鮮明に記憶している。

世界終末時計が最も戻ったのは1991年、米ソが第一次戦略兵器削減条約(START1  Strategic Arms Reduction Talks)に調印した時で、17分前まで戻ったようだ。残念ながら、その後時計は進みつつけている。現在、ウクライナ侵攻を背景にロシアと米国との新STARTは停止状態となっており、残り時間は「1分30秒」となった。

 

 


投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

どうなる新型コロナ感染症

 

昨年の夏ごろ、新型コロナ感染症について意見を求められると、「このパンデミックの将来を予測できると言う人は、自信過剰か嘘つきです。専門家は、また南半球のオーストラリアでの動向を注意深く見守っています。オーストラリアは、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの季節流行が復活し、病院が圧迫されています。」という海外の権威ある医学雑誌の記事を引用していました。新型コロナウイルス感染症は3年目を向かえてそろそろ終息という楽観論に根拠はなく、予想不能であり、冬季のインフルエンザとの同時流行に備える必要があるという趣旨です。
振り返ると、第7波に第8波とつづき感染者が急拡大しました。重症化の割合は初期の感染に比較して高くないものの、感染者数が極めて多いため一日の新型コロナ感染症に関連する死亡者数が過去最大となる日が続きました。インフルエンザとの同時流行もみられました。

わが国で新型コロナ感染症が確認されてからまる3年が過ぎた2023年1月、感染症対策において大きな動きがありました。新型コロナの感染症法上の位置づけについて、政府は1月27日の対策本部で、大型連休明けの5月8日に、今の「2類相当」から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を決定しました。
医療費などの公費負担については段階的に縮小し、3月上旬をめどに医療体制とあわせ具体的な方針を示すとしています。マスクについては、屋内、屋外を問わず、着用を個人の判断に委ねることを基本にするよう見直すとした上で、具体的な見直し時期を検討していく考えを示しました。

このほか、スポーツやコンサートのイベントでは引き続きマスクの着用を求める一方で、応援などのために大声を出すことを認めました。今後、各都道府県がこれらの方針に基づいてガイドラインの見直しを行うようです。岸田総理大臣が「ウィズコロナの取り組みをさらに進め、あらゆる場面で日常を取り戻すことができるよう着実に歩みを進めていく」と述べたように、通常の生活に向けて本格的に動き出すということでしょう。
今後、国の方針をもとに、各事業所でも新型コロナ感染への対応が検討されることになるでしょうが、その際、産業医に意見を求められる機会が多くなると予測されます。新型コロナの感染症法上の位置づけの見直しの方針はよいと思いますが、絶えず準備せよという意味で、私はアメリカで新型についてコロナの感染対策を主導してきたファウチ博士の言葉を引用しようかと考えています。「私たちはまだパンデミックのまっただ中にいる。」(ファウチ博士NHKの単独インタビューに応じて)。

 


投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

人口減少と物価上昇

 

カタールで開催されたサッカーワールドカップの余韻が冷めやらぬ12月中旬、日本銀行(日銀)の長期金利の変動許容幅を従来の0.25%から0.5%に拡大するというニュースに注目が集まった。デフレ脱却(賃金の上昇を伴った安定的な物価上昇)と持続的な経済成長を目指して超低金利政策を続けてきた日銀の方針転換ではないかという憶測が飛び交った。為替は一時急激な円高に振れ、株価は急落した。近年、コロナショックやウクライナ危機などいくつかの要因を背景に、世界の物価は上昇した。超低金利政策がひとつの要因となった過度な円安傾向も加わり、わが国の物価も上昇した。しかし、賃金の上昇を伴わない状況での物価上昇であり、家計への負担が懸念されている。

今回のニュースを聞いて、数年前に書いた医事新報の「少子化と研究」という小品を思い出した。日銀の物価安定の目標である(賃金の上昇を伴う)消費者物価の前年比上昇率2%の目標に対して、「少子高齢化により急激な人口減少が生じているので、物価上昇は難しいのではないかと思う。」と書いた。少子化対策が重要課題であることを強調するために、当時アベノミクスで話題となっていた日銀の目標を取り上げたのだ。ただし、急激な人口減少下で物価上昇は難しいのではないかと思うのは門外漢の直感で、根拠があるわけではなかった。気になったので、最近の議論をインターネット上で調べてみると、人口減少国でも物価は上昇する(賃金上昇にはふれていない)、デフレは人口減少が原因ではないなどの反対意見も出され、以前より活発に議論されているようだ。フランスの歴史学者エマニュエル・ドットに代表される人口統計に着目した方法論が注目されていることもあり、賃金、物価と人口統計に関係する研究を一層進めてほしいと思った次第である。