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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

今度、厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(両立支援ガイドライン)と略す」が公表されました。
今日では、とくに人口の高齢化と若年層の労働力不足のため、高齢者が退職後も就労を続けている事業場が多くなりました。
このことは、持病などの健康上の不都合をかかえた労働者が増加することにもなります。これらの労働者は医療・保健・福祉制度を活用することが多くなり、就労と疾病管理(治療のための医療受診など)を都合よく両立させなくては勤務を続けることが出来ません。

主に今までは医療現場では慢性疾患をかかえる不治の病を持ちながら就労している患者が多かったので、医療や福祉を供給する側がサービスを活用しやすくするために、診療時間を夜間にしたり、土日に開院して受診患者に便宜をはかっています。そのほかにも、いわゆる身体上の障害を持った人もノーマライゼーションの考え方が普及し、就労しやすいように職場環境を改善したり、就労可能な作業に配置して、就業者が治療受診しやすいように便宜をはかることがとられていま す。

これらの現状をふまえ、今度の両立支援ガイドラインは事業者側にも今まで以上に対応を求めたものです。
まず、理解が進むために、研修等により以下のような就労上の体制を作り、措置を実践されるような内容を提案しています。たとえば、まず労働者の健康確保はもとより、労働時間短縮、時間単位の年次有給休暇、就業場所の変更(在宅勤務も含む)、作業内容の変更、治療計画に合わせた勤務形態などがあげられています。

疾病構造が変化して、生活習慣病(がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎など)は、老化の一環として誰もが罹患する可能性のある疾病であり、医療技術の進歩によって「不治の病」で治療困難で急性期の経過をとっていた状態を、完治は出来ないが一生付き合う病気に変わってきています。

このため、長期休業して治療に専念する必要もなく、外来通院で治療継続でき、労働が身体機能に強い影響を与えることの少ない軽い疾患が多くなり、適切な就労の措置がとられれば就労の機会を失うことなく勤務継続が可能である。このガイドラインでは、特に「がん」を抱えた人の労働者について配慮がはらわれることを求めている。がんの治療が慢性的経過をたどり、治療も長期化し、治療による副作用の発現することもあり、また、がんに罹患したことによる精神的ショックなどのメンタルヘルス面の配慮が求められている。

これからは医療機関においても「両立支援センター」を設置して疾病管理と就労関係の相談にのったり、必要な場合には事業主への意見書等を作成するプランになっています。事業主は産業医や保健師、看護師等の産業保健スタッフと相談して適切な対応をとることが求められています。
今後は労働者の健康管理、生活の安定、幸せな人生の実現のため、新しい労働体制が事業場に確立されることを願っています。