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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

企業の「健康経営」という概念は今までも折に触れて語られてきました。
1980
年代にアメリカで「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくることができる」と言われていたとされています。すなわち労働者の健康が維持されなくては企業が成り立たないし、健全経営が困難であるとされていました。しかし、日本とアメリカでは雇用体制がもちろん異なります。
日本では、会社と労働者の関係は労働安全衛生法が成立して以来、日本独特の就労措置が実践されています。
労働者の健康確認と確保については、労働安全衛生法成立以前の労働者の採用にあたっては、労働者が採用前に健康診断結果を会社に提出し、会社は労働者の健康を確認して採用するシステムが多くは行われていましたが、労働安全衛生法成立後には会社は採用後に雇い入れ時の健康診断を行い、その結果により労働者の健康状況に合わせて適正配置をするなど就業上の配慮が必要となりました。また、労働者の健康管理は法的に企業の義務となり、かつ労働者に健康障害が起こった場合には、企業にその責任を追及することも可能になりました。
その上、病気の治療などを受けることを容易にするため、労働者が負担する医療費の一部を企業が補填することや、予防対策をとることが企業利益につながることと理解されるようになりました。それぞれの企業の経営状況に応じて相応に出資をして健康保健組合を組織し、労働者・企業、そして必要な場合には国も一体となって保険費用を負担し、医療の受診を支援することや健康の維持体制をつくり健康経営を実質的に実践しています。

また、今日では労働者数の減少、高齢労働者の就労、女性労働者の増加などにより、多様な就労者構造のなかで、必ずしもいわゆる健康な者のみが就労しているとは言えず、メンタルヘルス不調がある労働者、生活習慣病などによる病気治療中の労働者や、健診結果において何らかの所見がある者も多く働いているのが現状です。

事業者は常に労働者の健康を把握するため定期的(ほぼ1年毎)に健康診断を行い、医師により検査項目ごとに所見の有無について判定した結果報告を受け健康管理を実施します。
事業者は、管理区分(診断区分) の「医療上の措置不要(異常なし)、要観察、要医療」に関する判定を健康診断を実施した医師に求めます。また産業医に当該労働者の就労継続の可能性、就労制限や休業命令などの意見を求め、それにより作業環境管理、作業管理などの事後措置をとるとともに労働者の健康管理を行うことにより健康経営を実践します。

更に労働安全衛生法に基づく定期健康診断のほか、地域保健に係る一般・特定健康診査やがん検診などを含めると、検査結果に基づく産業医等の判定も判断基準が一層複雑となり、統一的に判定することが困難な状況が発生しています。
今までの産業保健の考え方では健康経営への対応は困難になっており、新しい考え方を取り入れて就労支援事業(事業場における治療と職業生活の両立支援)を現場で実践されることが必要だと思います。

()「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。