投稿日時:(592ヒット)

鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

今年の全国労働衛生週間のスローガンは「働き方改革で見直そう みんなが輝く 健康職場」であります。主旨は、働き方の改革を実践することにより、それぞれの職場における健康管理や職場環境を見直し、改善を図り、全ての労働者が輝いて働ける職場構築を目ざすことが期待されていると思います。
重点事項には⑴治療と仕事の両立支援、⑵化学物質による健康障害防止、⑶メンタヘルス対策、⑷過重労働による健康障害防止などがあげられています。
⑴の治療と仕事の両立支援については、持病を持ち治療を継続しながら就労している労働者に、医療の現場では、勤務時間後に治療時間を設定する、診察頻度を可能な限り少なく制限する、就労時に体への影響を少なくするよう薬の選択や投与量を調整する等、あらゆる事への配慮が必要となります。
これに併せて事業場側においても、労働時間の短縮や有給休暇等の取得体制が構築され実行されれば、両立支援はより容易となり病気の経過・改善は良好に繋がるものと思われます。
また⑷過重労働による健康障害防止も「過労死等防止対策推進法(平成26年)」の施行により、今日社会問題となっている長時間にわたる時間外・休日労働により発生する「過労死(脳・心臓疾患等に起因する病死)」や「過労による精神疾患(メンタル障害も含む)」が注目を集めています。少し前までの過重労働といえば、重い荷物を持ち上げて運搬する作業や激しい力作業、また体勢の悪い作業姿勢、温度・湿度などの厳しい作業環境下での労働等について着目し、体力づくりや腰痛防止など筋骨格系の強化改善を行ってきました。
そして現在とりあげられている「過重労働」は、従来の物理的な身体負担から、時間的長さが心身に及ぼす負担要素を主に注目してとりあげられ、国は労働時間が月45時間を超えて長くなるほど脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとの医学的所見を受け、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定しています。

「過重労働」については、産業構造、企業経営のあり方、労働者自身の生き方や働き方、自分の体調に合っているか等の医学的知見や社会経済的な事など広く多くの事項が関わっており、そのため内容によっては改善しやすい事柄もあります。
産業医の役割も従来とは少しずつ変化し、長時間労働者に対して面接指導・助言することが必要となり、そのために事業主から作業実態などの情報提供を受け、その情報をもとに適切な指導・助言を行うことが今まで以上に現実的に求められています。

ところで労働時間の「ファクター」のみを見たときに、それがどのように健康に影響を与えるのかという医学的知見はほとんど明らかにされていません。
日本の労働基準法では「一日8時間、週40時間労働」を取り入れています。このことの起源をさかのぼってみますと、18世紀ごろイギリスで産業革命の頃の事ですが、一日14時間以上を労働時間と設定し生産性の向上を目指していましたが、作業時間が長過ぎると反対に生産性は低下し、労働者の健康問題が発生したことにより見直され、週5日制等も取り入れて「一日8時間、週40時間労働」を採用するようになったことが始まりと言われています。

一日8時間労働が本当に身体の健康面を考慮して適切かどうかの根拠は明確ではありません。そのため適切な労働時間を、研究で明らかにすると共に、どれくらい超過すれば「長時間労働」というのかを解明する必要があります。
事業場での作業容態や労働環境は多様ですから困難とは思いますが、産業医はある程度科学的根拠をもって相談・指導・助言にあたる必要がありますので、この分野の専門的研究が開発され、促進される事を期待します。