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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

戦後 経済復興を目ざし、経済成長至上主義の考え方をベースに企業も労働者も将来設計を建てるようになり、社会的価値観として立身出世は美徳であると社会で受け入れられました。自分の価値をあげるため多くの人が高学歴を得ることが自分の将来を安定させることと考えるようになり、学歴社会が形成され、親の子育ても学業成績の向上に集中するようになりました。そして、社会で成功を修めることは、どの分野でも上位につくことが望ましいと理解されるようにもなりました。

企業等の雇用体制も終身雇用制を採用し、年功序列により昇進することが普通である体制であったので、同一の社会や会社組織のなかで上位になるためには、一生懸命努力して会社で認められ、その結果が立身出世に繋がるようになっていました。
しかし、時代の流れにつれて、グローバル化が進行し、主に経済の分野において、このままでは日本は世界で活動できなくなると危惧され始めてからは、世界標準に合わせた競争原理を取り入れた社会経済的発展を目ざし、「実力主義」、「成果主義」を会社の体制に取り入れるようになりました。それは労働現場にも導入され、成果を出した者が上位に評価されるようになり、高収入を得るようになりました。

このため終身雇用制や年功序列が見直されるようになり、ITなどの技術革新の急速な普及により、古い世代は困惑し、社会の進歩についていくのが困難になるとともに、団塊世代以降の若い世代には、成果主義・実力主義は普通であると理解されるようになっています。
使用者はもとより労働者も、企業で採用され、労働することは企業に利益をもたらす成果を出すことが当然のことであるという傾向になり、労働者は成果を出すため時間外で働くこともやむを得ないと思うようになりました。このことは労働者に身体的にも肉体的にも過重な負担をかけるようになり、精神的に異常な反応が出てきたり、身体的疲労と障害を起こすようになってきました。

こうした現状から、産業保健の分野で「メンタルヘルス対策」や「過重労働対策」を重要な課題として取り上げるようになった事は多くの人が認めるところです。
これらの一環として、長時間労働による過労死が話題となり、産業保健の新しい課題となっています。働き過ぎるということが、以前から課題として提案され、このことが健康障害を起こす重要な要因であると学会等でも報告はされていました。長時間労働を続ける事による身体異常として、まず本人自身が、疲労感があると自覚した上で、自覚症状調査を健康診断に取り入れてモデル的に行われましたが、過重に対する反応は個人差が多く、疲れたという状態を医学的検査で予見或いは異常であるとチェックすることは困難と見なされたまま今日に至っています。

ストレスチェック制度による調査では、労働者が自覚的にチェックすることで自分のストレスの状態を知り、気づきを促し、事業者は仕事を軽減させる等の改善を図ることを目ざしています。労働することでメンタルにストレスがかかり、それによって精神的に異常な反応が起こることを、常に予期しながら、毎年チェックすることにより、労働者自身がメンタルヘルスの不調になる前に早く気づき、会社側も不調を未然防止することを目的として行われています。
しかし、これらの対応の前に重要なことは、冒頭にも触れたように、国民の働き方改革、価値判断の改革がなければ対応することが出来ないと思います。産業保健も従来の労働災害や労働環境によって起こる健康障害の予防から、次の段階に対処し進歩する必要を感じるようになりました。