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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 平成30年8月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

「生活習慣病予防や肥満予防に運動をしましょう」と保健指導のなかで指導内容としてよく言います。
はたして「運動すること」が健康の保持増進や病気の改善などにどのくらい効果があるか、どのくらい科学的(学問的?)に明らかになっているのか少し考えてみましょう。
まず、運動の定義についても統一された概念があるわけではありません。もちろん生きている人間は、全て動くわけですので、単に身体を動かすこととして言っているわけではありません。
私が保健指導時に使う「運動」ということばは、以下のような大雑把な考え方で使っています。すなわち日常生活動作に加えて、更にエネルギーを追加する動作のことで、ウォーキング(散歩)やランニングを基本として、自転車こぎやダンベル体操のようなレジスタンス運動、又は体操やヨガ、球技、武道などのスポーツを30分以上継続して行い一定のエネルギーを消費する動作を表しており、かなりアバウトな概念で使っています。

運動効果の研究については、身体の機能維持、体重減少、筋肉増強、バランス機能維持などの内容についての報告は多数あります。しかし、生活習慣病の予防や改善の効果についての研究報告は、糖尿病や高血圧の改善についての報告がありますが少ないと思います。
肥満は生活習慣病の一因と言われていますので、運動のもたらす肥満防止について述べてみます。
最近では、科学的根拠に基づいた医療(evidence based medicine)ということが言われており、クスリや措置に効果があることを科学的データと、その解析によって証明することが必要となっています。そのため、運動することに肥満防止や体重減少の効果があることを、運動をする人、しない人等の比較研究で明らかにする必要があります。

例えば、肥満者を対象に運動の負荷による減量効果(体重減少や体脂肪減少など)を証明するためには、調査を始める当初に多数の肥満者に参加してもらい、肥満者を運動群(A群)と非運動群 (B群)に分けて観察していきます。一定期間後(少なくとも1年後)に体重等を測定し、A群とB群でどちらに体重減少した人が多いかを比較し、A群に体重減少者の割合が高いことを示すことによって、運動が減量効果をもたらすものであると評価するものです。
これらの研究成果を評価・理解するにあたり、解析モデルを作成して多変量解析という評価手法を使って解析しますが、人間を対象とする限り、厳密に運動以外の生活スタイルをコントロールすることが非常に難しく、また調査期間中に自ら進んで食事をコントロールする者があったり、普段運動しないのに運動(散歩など)をすることもあったりと、結果を左右する多くの要因を含んでいるため、評価が容易には出来ない場合があります。
また、運動の肥満予防効果を調査研究するためには、調査開始時に、肥満者はもとより非肥満者にも多数参加してもらうように計画し、この参加者をA群とB群に分けて長期間(1年以上)追跡し、調査終了時点にA群の方が肥満者(体重増加した者)の割合が少ないことで運動の効果ありとするのですが、長期間に亘り対象集団を追跡することは容易なことではありません。

そこで、普通の研究方法としては、ある会社の社員や自治体の住民を調査対象として、その中である一定の運動の範囲(基準)を決め、運動しているA群と運動していない(調査者の決めた運動の概念に相当しない)B群に分けます。そして、それぞれの群の人に、過去(今まで)に、どのような運動をしてきたかを面接調査し、体重を比較することが実施されます。生活パターンの異なる者を対象にするので、運動の多い人、中程度の人、少ない人などにさらに分けて解析するのは、評価をより一層複雑かつ不正確にすることになり、すっきりと科学的に納得のいく解析は難しいのです。

しかし、短期間(1年以内、数カ月内)の運動負荷によっても減量が見込まれるという報告が多くあることも間違いではありません。たとえ事例報告であっても現実に効果があることを科学的に明らかにしている報告も多くありますので、激しいスポーツや肉体労働をすることではなく、適度な運動をすることが健康の保持増進あるいは生活習慣病予防に効果があることは間違いありません。くどいようですが、運動することを生活習慣に取り入れられること勧めます。