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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和2年8月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

事業場における感染症対策は、原則として、就業に起因して労働者(正規、非正規にかかわらず)自身が発病した感染症(とくに病原微生物を取り扱う作業従事者など)、または他の労働者に就業を通じて感染させる可能性のある感染症(結核、インフルエンザ、エイズ、肝炎など)に罹患した場合に産業医等が作業の中止、出勤の制限、休業等の必要があると指導した場合には、事業主は必要な措置を講じなければならないことになっています。

今度の新型コロナウイルス感染症は海外(中国?)で新しいコロナウイルスが発生し、人から人へ感染する病原体となり、日本国内に侵入して感染が拡大したものです。今までの我国の産業保健分野で行っていた事業場内での感染症、また新型コロナウイルス対策とは異なり、事業場外でとられる諸対策と適切にあわせた対応が求められています。一般的には鳥インフルエンザや新型インフルエンザとは異なり病原体がつよく、国民のすべてが感染する恐れがあり、今までの対処方法では不十分であるため、対応に当惑しました。重症化しやすく死亡者が多く出ることがあったため、国策として法的に感染が拡大しないよう予防するために緊急事態宣言が出されました。外出の自粛、国内での移動制限、集会・会議の延期や中止、自主的休業、学校の休校などの対策がとられ、社会的、経済的にも大きな影響を与えました。

とくに事業場はやむをえず休業せざるを得なかったのですが、労働者にとっては、休業中の給料が削減されたり、不払いになるのではないかという不安がおこりました。都道府県知事が行う休業や就業制限要請では「事業主の責に帰すべき事由による休業」に該当しないので、労働基準法の休業要件になりません。また、感染症法にも休業手当の支給については謳われていません。そのため今度の新型コロナウイルスについては、国民への影響が大きいため、特別に国の雇用調整助成金による支援が受けられることになっています。

労働者本人が、業務に起因して病気で休業した場合の休業補償については、労働基準法に明記されており休業手当を支給しなければならないのですが、指定感染症に罹患(検査陽性者は感染したとみなされるかどうか不明な点がある)した場合には種々の判断条件があり、事業主と労働者間で話し合い、労働者の不利益とならないように努めなければならないと考えます。指定感染症で労働者本人が発病した場合や、家族、親しい友人等の発病にて濃厚接触者となり、事業場の同僚や会社全体等に迷惑をかけたくないため自主的に休業した場合は休業手当の支払い対象になりません。(多くの場合は有給休暇で対応することになり、陽性者として入院となると10日間程度の有給休暇を消化することになるので、労働者の不利益となる場合があります)会社によって対応が異なるので会社の就業規則を点検しておくことが必要です。健康経営を謳う事業場では、病気休暇など任意に有給の休暇制度をこのようなときのために策定しておくことも必要と考えます。

また、ウイルス遺伝子検査(PCR法)、免疫抗体検査(特異抗体は分かっていない)などの陽性者を診断した医師は直ちに保健所に届出ることになっています。事業場への通知は本人又は関係機関からの連絡で事業主が知ることになり、対応に遅れ、あわてることも考えられます。指定感染症となった新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴なども正しく理解しておきましょう。

緊急事態宣言が解除された後、キャリアーになりやすい若い世代に陽性者が発見されるようになりました。今後かなりの確率で第2波、第3波の流行がおこることが予測されます。労働者が陽性者となったり濃厚接触者となると、行政的対応がとられるため家族、同僚、会社等に影響を与えます。これを未然に防ぐために一人一人が日常的に予防的行動をとるように努めましょう。