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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和4年8月によせて 

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

人生100年時代到来?

「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』で提唱した言葉です。世界で長寿化が急激に進み、先進国では2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでとは異なる新しい人生設計の必要性を説いています。日本の場合はさらに長寿傾向で、2007年生まれの半数が107歳まで生きると予測されています。この予測は、将来の死亡率の変化(低下傾向)も推定して行うコーホート平均寿命で、従来の平均寿命よりも長くなりますが、実態をより反映していると言われています。日本がこのように長寿国のトップとなる理由としては、戦後の社会の安定と経済発展を背景にした乳児死亡率の著明な改善に加え、中高年の慢性疾患対策による死亡率の減少、さらに最近では90歳代など超高齢での死亡率の減少が要因と考えられています。また、日本人の食習慣(米が主食で、魚や野菜の摂取量が多く、低カロリー、低脂肪)や、国民全体が健康への関心が高いことも長寿に貢献していると考えられています。長寿の影響は産業保健分野でもみられ、この分野の対象者が、従来の生産年齢人口である15歳~65歳から、現在では22歳~75歳と高年齢にシフトしています。そのため、産業保健の中心的課題が、従来の労働災害・職業病対策から、生活習慣病対策や治療と仕事の両立支援などへと変化しました。

ただ、「人生100年時代」という予測は、やや楽観的すぎるという見方もあります。ウクライナ情勢のような社会・経済的不安定性、新型コロナのような新興感染症、気候変動による干ばつ、水害、熱波等の不測の事態が阻害要因と考えられています。わが国でも気候変動による熱中症が脅威となっていますが、数年前、私(大学の教員時代)たちは、7月~8月の夏季に最高気温が37℃を超えると、熱中症による救急搬送リスクが真夏日の17倍まで上昇するという試算を行いました。ただ、今年は6月に最高気温が40℃を超えることがあり、地球環境の変化は私たちの想定を超えています。「人生100年時代」到来のためには乗り越えなければならないハードルがいくつもあるのではないかと考えています。