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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

世はグローバル時代になった。経済分野においてもイギリスで国民投票によりEUからの離脱票が多数を占めた事で、世界の株式市場が反応し乱高下している。大企業の ヨーロッパ支店がイギリス国内にあることもあって日本国内の市場も株の全面安を起こすなど直接的に影響を受けています。
このように海外の国内情勢がもろに遠く離れた日本国内に影響を与えるようになり、もはや日本一国の内部情勢で日本の存在を考えるだけでは、世界の一員としての存在を明確にすることや、繁栄を計ることは出来なくなっています。

日本の国際交流は当初は国際化ということで言われ、海外の人、特に発展途上国の人を国に受け入れ、主には留学生や研修生ですが日本の得意とする技術などを習得してもらい、留学生や研修生が帰国後に自国で産業を興したり、活用して発展することを期していました。また、それと同時に保健分野では、医師や保健師などの専門職が感染症の流行地域や医療の行き届かない地域で医療行為をしたり、保健指導などを行い、衛生状態の改善をするなど、限りなくへいきん平和的で人道的な国際貢献を実践してきました。

最近ではグローバル化として日本人が外国に出かけて現地で生活し、そこの文化を共有しなから生活し活躍するという、現地で姿の見える貢献を保健分野のみでなく文化、教育などの分野でするようになりました。

日本国内に来日された外国人も日本国内で居住する人も多くなったので、国籍の異なる人と一緒に生活する為、各国の文化や宗教を受け入れる「多文化共生」という考えを実践することが日常的になりつつある。
特に文化の中でも宗教関係の価値判断と行動基準を理解し合う事の難しいことは以前から言われています。

その中で技術協力の為、日本人の専門家が途上国に派遣されて、テロ等の事件に遭遇して死亡するなどの不幸な事象が起こっています。
世界の中でも特有な文化や宗教観を持っている日本がグローバル化として世界貢献するためには、奉仕精神だけの単純な考えではとても対応困難です。海外に対して今まで以上の十分な理解とテロなどのリスクに遭遇しない体制がとられないと日本のグローバル化は発展しないと思われます。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

業務上疾病発生状況を見ると、「負傷に起因する疾病」が最も多く、その中で腰痛(災害性腰痛)が最も多い。その発生業種も多岐にわたり、社会福祉施 設(介護 職)、運輸交通業(自動車運転)、小売業(重荷運搬)、建設業(土木作業)等で多発しており、健康診断時でも自覚症状として訴えが多く、重要な相談内容の 一つです。

これを予防するために重量物取扱い作業の自動化、省力化や不自然な作業姿勢の禁止、そして作業後の整備・腰痛体操の実践がすすめられています。

これまでは、重激業務などは避けられない労働として「過重労働」の中でも重点的に労働衛生対策がとられていました(過去のことではなく今日でも重点的な課題であることには変わりはありません)。

しかし、最近では過重労働による健康障害防止対策の内容を見ると、時間外の長時間労働者(1週に40時間を超えて行う労働が、1ヶ月当たり100時間を超 え、疲労の蓄積が認められる者)について、疲労やストレスが重なると過労死につながるような脳・心臓疾患を発症する事に関連しているという医学的知見もあり、事業者に対して改善をはかるように対策がすすめられています。

過重労働すなわち重い荷物の人手による運搬、深夜労働、長距離運転、悪い 作業姿勢によって発症する健康障害も重要ですが、IT産業や新興大企業における「労働者の替りはいくらでもいる」として大量採用された若い労働者の作業態様に注目されています。若い労働者を大企業は支店の店長や役職に早くから登用し、役職ばかりで権限のない小規模店舗の店長への残業代不払いが問題となった、労働時間の長時間規制から除外して働かせる、いわゆる「名ばかり管理職」であったり、テクノストレスをおこさせたり、パワハラが行われるなど、いわゆるブラック企業が表面化して、心身症の予防、メンタヘルス対策が 過重労働対策の重要課題となっています。

産業保健の研修会のテーマに、「過重労働としての長時間労働者やストレスチェック制度の調査結果による高ストレス者の面接指導」を同時に取り上げているのは、両方とも面接指導の手順が類似していることにもあります。

過重労働などの様にそれぞれの労働衛生対策も年代を経て法律が変わったり、社会情勢の変化により内容とあり方が変わっていくことを認識しておくことが重要だと感じています。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

我々人間にとって「心の健康」は大切なものであるとともに、身体の健康と同じように論じられ、ややもすると身体の健康よりも重要なものであるとも言われます。人類は万物の霊長であり、精神活動をするから人間であるとも言われます。
健康について、WHOの定義では「単に疾病や虚弱でないというだけでなく、肉体的・精神的ならびに社会的に良好な状態である」とされています。

精神的健康すなわち心の健康について、よく話されますが実際にどのようなものであるか分りにくいことです。

医学分野のなかに「公衆衛生学」というカテゴリーがあり、そのなかに「精神保健」という分野があります。このなかで産業保健に関連した内容をみると、精神の病的状態のために職業生活に支障を生じている状態を改善したり、休職した場合は職場復帰を支援をすることが行われています(障害者の公的自立支援が主な対策でした)。

今日では、労働現場のいわゆる健常者のメンタル不調を未然に防止することがメンタルヘルス対策として行われています。「労働安全衛生法」の制定により、労働者の健康を守る為に、「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」(労働衛生の3管理)が法により命令として、事業主が行うべき施策として定められました。その中で、「健康管理」については健康診断や健康教育が条文として謳われています。具体的施策には通称「トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)」として身体面だけでなく、精神的な側面についても十分配慮して推進されています。トータルと言われるなかには、ターゲットとして生活習慣病予防と心理社会的ストレス要因によるメンタル不調の発生防止を実践することが含まれています。

メンタル不調とは行動障害、心身症、神経病、精神病などこころの不健康状態を総称する言葉です。特に行動障害には出社拒否、無断欠勤、職場内での人間関係や仕事上のトラブルの多発、過食、多量飲酒、デスク喫煙、性行動の偏り(のぞき、下着どろぼう、痴漢など)等があるとされています。

メンタルヘルス対策は健康診断の実施と同時に行われなくてはならないことであり、ストレスチェック制度が施行されたのは、この流れの一環であり、繰り返しになりますが、労働者のメンタル不調を未然に防止(一次予防)することを目指しています。就業についている労働者の強い不安、悩み、ストレスなどの心理的負担の程度を把握し、労働者自身がストレスに気づくことが重要とされているため、労働者自身で判断が困難な場合は、専門的に相談にのってくれる産業医の役割は重要であり、事業主に対しても安全配慮義務を遵守できるように医師として支援いたします。その職務を遂行するため、月1回の職場巡視をすること等により、労働者の職場の現状を把握して、医師の立場から職場へ適切な指導・助言をしたり、高ストレス者の面接指導も行うのがこの制度の要であります。50人以上の労働者を雇用している事業場においては産業医が選任されていますので、機会をつくって産業医に相談して下さい。

労働者の心の健康を保持、増進するために、事業主や担当者等の理解が深まり労使一体となってメンタル不調を防止するため、実効ある事業として実践されることを願っています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

今度、厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(両立支援ガイドライン)と略す」が公表されました。
今日では、とくに人口の高齢化と若年層の労働力不足のため、高齢者が退職後も就労を続けている事業場が多くなりました。
このことは、持病などの健康上の不都合をかかえた労働者が増加することにもなります。これらの労働者は医療・保健・福祉制度を活用することが多くなり、就労と疾病管理(治療のための医療受診など)を都合よく両立させなくては勤務を続けることが出来ません。

主に今までは医療現場では慢性疾患をかかえる不治の病を持ちながら就労している患者が多かったので、医療や福祉を供給する側がサービスを活用しやすくするために、診療時間を夜間にしたり、土日に開院して受診患者に便宜をはかっています。そのほかにも、いわゆる身体上の障害を持った人もノーマライゼーションの考え方が普及し、就労しやすいように職場環境を改善したり、就労可能な作業に配置して、就業者が治療受診しやすいように便宜をはかることがとられていま す。

これらの現状をふまえ、今度の両立支援ガイドラインは事業者側にも今まで以上に対応を求めたものです。
まず、理解が進むために、研修等により以下のような就労上の体制を作り、措置を実践されるような内容を提案しています。たとえば、まず労働者の健康確保はもとより、労働時間短縮、時間単位の年次有給休暇、就業場所の変更(在宅勤務も含む)、作業内容の変更、治療計画に合わせた勤務形態などがあげられています。

疾病構造が変化して、生活習慣病(がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎など)は、老化の一環として誰もが罹患する可能性のある疾病であり、医療技術の進歩によって「不治の病」で治療困難で急性期の経過をとっていた状態を、完治は出来ないが一生付き合う病気に変わってきています。

このため、長期休業して治療に専念する必要もなく、外来通院で治療継続でき、労働が身体機能に強い影響を与えることの少ない軽い疾患が多くなり、適切な就労の措置がとられれば就労の機会を失うことなく勤務継続が可能である。このガイドラインでは、特に「がん」を抱えた人の労働者について配慮がはらわれることを求めている。がんの治療が慢性的経過をたどり、治療も長期化し、治療による副作用の発現することもあり、また、がんに罹患したことによる精神的ショックなどのメンタルヘルス面の配慮が求められている。

これからは医療機関においても「両立支援センター」を設置して疾病管理と就労関係の相談にのったり、必要な場合には事業主への意見書等を作成するプランになっています。事業主は産業医や保健師、看護師等の産業保健スタッフと相談して適切な対応をとることが求められています。
今後は労働者の健康管理、生活の安定、幸せな人生の実現のため、新しい労働体制が事業場に確立されることを願っています。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

最近、健康に関する書物や健康食品などの宣伝に「健康寿命をのばす」という意味の言葉が使用されています。
「健康」の定義については、世界保健機関(WHO)の定義(健康とは身体的にも精神的にも社会的にも完全に良好な状態であり、単に病気がないとか、病弱でないということではない。)が一般的に使用されていますが、個人個人にその概念をあてはめて考えると、現実的には理解と実践する場合に種々に異なった対応があります。
また「寿命」は命がある間の長さのことでありますが、これを組み合わせた「健康寿命」とはどのような状態であるのか、わかりにくい場合があります。「健康寿命」という考え方は予防医学分野で、病気を予防する事とはどのような生き方の状態を想定するのかを検討する中で考え出された概念です。

一生を生きていく ためには可能な限り身体的に自立して、自分で自由に摂食でき、そして排泄などが可能な状態を維持する事が、望ましい条件の一つであると考えたわけです。
「健康寿命」は主に身体的機能低下(病気・老化など)を視野に入れた考えでありますが、精神的機能低下(認知症など)も入れて考えないと高齢化社会では適切ではありませんので、「健康寿命」の概念は複雑になってきました。

疾病予防対策の実際では、病気になるきっかけを未然に回避し、不健康な生活から個人が脱却するようにする事を目指しています。原因の分っていることはその原因に暴露しない対策や環境をつくること。例えば、公害などの原因となる工場からの排煙による大気汚染については公害対策で改善したり、有害物質が混入した食品の摂取を避けるために食品衛生法により厳重に食品業者を監督・指導が行われています。

個人についても肥満が万病の元と考えられるので、食生活の改善や運動の実践を提案し、より適切な運動の指導や対策等を行っています。これらによって自立して一生を過ごすことを疾病予防の目標とする概念に 「健康寿命をのばす」ことで、人口の高齢化などに対応しようと考えたわけです。

「健康寿命」の考え方には、一人一人の主体的人生観が入っていますし、単に生きながらえることを意味しているものでもありません。

社会対策として「健康寿命」の考え方が適切に理解され、すばらしい人生が実現できることを願っています。