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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

いよいよストレスチェック制度がスタートしました。各企業や事業場では開始にむけて準備されていると思います。また、産業保健総合支援センターにも不明な点や実施方法などについて問い合わせが増加しています。

さて、チェックリストの調査項目の医学的意味や背景についてはあまり解説されていません。労働者は労働をすることによってストレスを感じる (精神的負担が自分の中で処理できなくて、身体的あるいは精神的に種々の影響や症状が表れてくる場合)ことがあります。
もちろんストレスによって、それがきっかけで前向きに反応して活力の源となったり、活発な活動の源になる場合がありますが、ストレスチェック制度の調査項目は前者のような状況をチェックし、集計することになっています。すなわち仕事や職業生活によって精神的不安や悩み等を感じ、これがストレスとして感じている労働者を対象とし職場環境を改善することを目指しています。

ストレス要因は、いろいろありますが、その中で精神的プレッシャーや労働負荷などに関連したものがあります。特に、精神的プレッシャー (労使関係や同僚とのコミュニケーションなど) は明確に判断することは難しいですが、肉体労働 (重い荷物を持ったり困難な仕事をする) や長時間労働に関係することはストレッサーが計量しやすく、程度分類 (症度) が可能であり疫学的にも解析が容易であり科学的に説明しやすく客観的にも分りやすいのです。これに関連したことは、平成26年11月1日に施行された過労死等防止対策推進法の内容が分りやすいと思います。
労働をすることによって感じる死に至るような、ストレス(個人差がある)を明らかにして法律によって過労死を防止することを目指しています。また、長時間労働 (測定可能) が脳や心臓疾患の発症に関係することを疫学的に証明することは可能であります。

心理的負担 (強さや程度分けが困難) による精神障害 (精神疾患) により、正常な認識や行為選択能力が著しく阻害され自殺に至っことを証明することはなかなか困難ですが、過重労働や長時間労働であれば、たとえ死亡まで至ることがなくても脳血管疾患 (脳卒中) や心臓疾患 (心筋梗塞) に至る因果関係をある程度明らかにすることが疫学的 (寄与度、確率、蓋然性) に可能であると認め、労災認定が行われるようになりました。

ストレスチェック制度はこの法律の対象となる状況にならないように、仕事をすることが精神的負荷であっても早目に自分自身が認知したり、ストレスの高い労働者については関係者が精神的に援助することを目的としています。
労働者がチェック項目に記入する場合にも、これらのことを理解し正確に記入してもらえるように少しずつ対応していくことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


投稿日時:(569ヒット)

鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

明けましてお目出度うございます。
今年は昨年末(平成27年12月)に開始されたストレスチェック制度を実質的に実施することになります。
ストレスチェック制度の目的は労働者がメンタル不調になることを未然に防止することにあります。誰でも日常の生活する場面でも或いは就労中でも種々のストレスがかかります。それに対応するため、労働者が自分にかかっているストレスの程度などの状態を知ることにより、ストレスがたまっていたり、ストレスの程度が高い場合には医師などの面接指導を受けることによって軽減措置をはかる対策をとるようにすることです。
実施にあたっては、紙媒体である質問票に労働者自身が自記式によって記入することで、労働者の心理的負担の程度を把握する検査を行います。それをもとに労働者自身にストレスの気付きを促すとともに職場改善につなげるなど働きやすい職場をつくることや、メンタル不調を防ぐ第一次予防を目指したものです。

さて、予防医学において、第一次予防(健康増進、予防接種による免疫機能強化など)と言いますが、最近までの第一次予防は生活習慣病(脳卒中、がん、糖尿病など)の予防の実践に健康診断をすることや病気の治療過程で投薬の前に食生活改善や運動をすすめることなどが多かったと思います。このために身体の健康状態を知るため血圧を測定したり、血液の検査や胃カメラ、胸部X線撮影などのスクリーニング検査が行われ、一般的にこのシステムが普及し受け入れられています。これにより早期に異常を発見し、治療をしたり、肥満予防のために運動をすすめることなどで早期発見・早期治療という第二予防につなげて健康維持を実践したり、延命効果をはかることを目指しました。

一方この予防活動は、よい効果ばかりではなく、精密検査を受けて早期の所見などを判定するので、見落とすことがあったり、偽陽性として不安な時期を過ごす精神的負担を発生させることがあります。
もちろん病気を未然に防ぎ、延命をはかる効果があることは言うまでもありませんが、不利なこともありますので、これを少なくするため医療のエビデンスに基づいた医療判断や医療行為が適切に行われるよう努めることが肝要です。

さて、今まで精神保健活動を第一予防として取り組んだ例としてはメンタルヘルス対策があります。
この度のストレスチェック制度は、人間のメンタル不調という人の気分障害などの精神活動に関連した医療のなかでも高度な医療知識と判断が要求される分野であり、日常的に誰もが陥るうつ状態などのメンタル不調を発見することや、うつ病などを鑑別診断するなど難しいことを実施することになります。

そして、高ストレス者になった者に対して、原則的には産業医によって面接指導が行われ、産業医にとっても高度な技術と知識が必要となり負担がかかります。これを容易にかつ均一的にするためにチェックリスト等を活用し工夫して行うことでスムーズに実施されることを期待します。

ストレスチェック制度では、精神障害者を発見するのではなく、快適な労働環境において労働できる職場形成を目指していますので関係の皆様の適切な理解のもとで実施されることを願っています。