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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

「こころの健康」ということが、メンタルヘルスやストレスチェック制度の説明のなかでよく使われます。
「健康」というのは、健康であるという定義よりも健康を害していない(医学的検査結果で異常値を示さない、又は基準値や標準値から逸脱しない)ということで、健診などで判定されて説明を受けた方が科学的に理解されやすいと思います。

また「こころ」というのは「からだ」に対することばであり、人間の精神作用の元となるもので、知識、感情、意思の総体のようなものであると考えられます。

そうすると「こころの健康」とは実態が見えないものであり、基準値や標準値(最近では正常値という言葉は使われなくなっています)で判定し、健診結果のように科学的な数値として診断できることではありません。笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったり、悔しがったり、妬んだり、人間の本来持っている、いわゆる普通の精神活動が歪んだ状態で一定期間続かないようにすることが「こころの健康」を保持することになります。

「こころの健康」を、保持・増進あるいは歪まないように予防するためには、身体的不調(高血圧、糖尿病、神経痛など内因的制限)によって「こころの健康」が保持できない場合は病気の治療等行い改善をすることが重要になります。

外因的要因(物理的、化学的、生物学的ストレッサー)によってストレスが発生し、「こころの健康」が維持できない場合には、騒音、寒冷、高熱などの環境改善、シックハウス病、有害ガス、有機溶剤などのストレッサーの除去、病原微生物などの雑菌や害虫の駆除、花粉に対する防具などの対応を実践することが必要です。

家族の不幸(喪失感)、夫婦の不仲、子供の問題、家計等の経済問題などの社会的ストレッサーから発生するストレスは、日常生活を良好に保てるような個人レベルの相談を可能にする対策をとっておく必要があります。

職場などの人間関係のストレッサーによるストレスには就業体制の改善が必要であり、人事考課等による就業成績の評価に対するストレスは避けがたいこともあります。また、最近の新しい傾向として、日本の資本主義体制での評価はあまり厳しくない雰囲気で発展してきましたが、日本の雇用体制に欧米流の効率主義や実力主義が取り入れられるようになり、それに伴い永久就職雇用体制から非常勤採用(期限付き)、パート採用などの短期間採用が多くなっています。このことは、契約期間が切れると失職するのではないかという不安が、常に労働者にのしかかっていることになります。

自分一人の考えでは、心が閉鎖的になり抜け出る事が困難な場合もあります。 第三者(上司、家族、そして産業医など)に相談することにより、ストレッサーがストレスとして固定しないように対応する努力が必要です。

「こころの健康」を保持・増進することは、精神疾患の第一次予防の前の事業場において、楽しく幸せに安全に働ける職場環境をつくることを目指しています。