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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

今日まで労働の過重負荷がもたらす生態影響は、重たい荷物を持ち上げ人力で運搬したり、過酷で劣悪な労働条件下の職場で働く労働者について発生する「健康障害」と考えてきました。
これらの作業は重機の導入、ロボット化、作業環境の改善や予防・対策などによって今日では目覚ましく改善されてきました。それに代わり、コンピュータ化による労働密度の高まり、残業・休日出勤の時間外労働の常態化による長時間労働など過重で過密な労働負担が加わりテクノストレス等も重なって健康破壊が発生するようになりました。
肉体疲労と精神疲労が蓄積し、これらが重なって過労状態が続き、かつ慢性化し、これによって病的疲労(機能的変化の状態から異質的障害をおこし不可逆的な変化が進んだ状態)が起こり、その中でも死に至る最も重篤な場合が「過労死」です。

これは、長時間労働、深夜勤労働、精神的負担の大きい労働環境(配置転換、出向、単身赴任等)、いわゆる過重労働などに起因する作業に従事し、疲労が蓄積し、過労状態が続く事により、生活習慣病のうち、循環器系の疾患(脳出血、クモ膜下出血、脳血栓、虚血性心疾患、急性心不全など)などが起こり、死亡した場合、業務上に起因したものとして労災認定とするのが適当であると考えるようになりました。

一方、過労死に関連する疾病は、労働に関連して発生するのみでなく、個人の素因や不摂生な日常生活(食生活、運動不足、家庭内ストレス、飲酒、喫煙など)によっても発病するため、職業関連疾病として判断する事が困難な事が多く、今までは労災認定がされにくかったのです。今日では、自殺も長時間労働に起因したものとして考えられる場合が発生しています。

そこで、判定をより容易にするため、定期的に職場での健康診断を受診し、日頃の健康状態を把握しておくことによって、日常の就労環境と関連するかどうかを判定し易くなるようにしておく必要があります。もし血圧などの異常所見が見つかれば、産業保健スタッフなどに相談し、保健指導を受けて改善に努めます。かつ定期的に「メンタルヘルスチェック」などで職場のストレス状態を把握しておき、その上で不幸にも健康障害や死に至った場合に、職業に起因する「過労死」であると判断することが比較的容易になります。

医学的に判定するための過重負荷の決まった定義が特にあるわけではなく、異常な出来事に遭遇したり、予め決められている就業規則を大きく逸脱しての勤務状態であったり、特に過重な業務(企業や職種によっても異なる)に一定の期間従事した就業場所で発症した場合に、検討・審議されるので日常の仕事内容、勤務時間、健康状態を把握しておくことが必要です。

「過労死」の概念を取り入れたのは、労災補償認定の容易化を目的とするもののみではなく、循環器疾患も職業病の範ちゅうであり、長時間労働やストレスの多い作業環境での労働を異常なまでに強いる事のないように適切な改善を図り、健全な労働環境のもとで労働者が活動しやすくなり、更に企業の発展につながることを目指したものである事を改めて認識することにあります。