投稿日時:(462ヒット)

鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

少子高齢化が進行するとともに、人口の年齢構成が変化する中、10歳ごとの年代別人口構成のピークは高齢の方向にシフトしています。
これに合わせ、労働人口もピークが高齢にシフトしているので、労働力を確保するために定年延長が検討され、或いは、産業分野によっては、実際に実施されています。このことは、高齢者が労働を継続できる健康と体力を維持し、定年後も労働可能な健康を維持しているという裏付けでもあります。

それを受け、若者も高齢者も、男性も女性も、障害のある者も、国民の一人ひとりが自分の希望する職場や業務に配置され、それぞれの能力を発揮して働くことが出来る労働現場を確保することが国策としてとられつつあります。
そのためには、適正な労働条件や安全で衛生的な仕事を数多く確保し、現在の労働のあり方を改革に向け、雇用改善が必要となっています。

このような観点から、同一労働同一賃金の実現に向けて取組み、非正規雇用の拡大を止めるとともに、非正規労働者の待遇改善、長時間労働の是正、また、女性・若者、高齢者、障害者、病気治療中の者など、多様な人材の活躍を促進することが施策にとられる様になりました。
これらの施策のなかで、特に女性の労働力の確保は必須であり、「女性活躍推進法」が実際に施策となるような動きが提案されています。また、「一億総活躍社会」を支えるため、平成29年1月に施行された、「改正育児・介護休業法」及び、「改正男女雇用機会均等法」により、妊娠・出産・育児休業・介護休業等の制度を周知して、上司・同僚等による就業環境を害する行為(ハラスメント)を防止するため、雇用管理上必要な措置を事業主に義務づけられました。今後これらの改正を周知し、理解を深め実施されることを目標に産業保健総合支援センターの研修内容にも多数計画されるようになります。

これを進めるためには、多数の解決するべく労働体制や職場環境の改善が必要ですが、まず男性女性も、事業主も労働者も今までの価値観と考え方を改める事が必要です。
一例として、医学医療の分野においても、女性の医学生の人数がクラスの半分を占めるようになり、将来、女医が増加することが予測されます。男性医師を中心に医療体制や患者ケア体制がとられていたので、24時間患者のケアをすることを、当たり前としてきた主治医体制を考え直す必要があります。
女医も結婚し、育児に携わるのは当たり前である今、主治医の概念で患者ケアに携わる事は困難となる事が予想されます。看護体制のように、医師も3交替制で患者の治療にあたれるような、思い切った考え方を取り入れなければ、医師の労働力の確保と医療機関の経営が困難になります。

しかし、患者側においても自分の気に入った医師に治療を続けて貰いたいと思っているし、医師が時間がきたら交替して治療にあたる事を受け入れられるであろうか疑問です。
特に、医療を経営する側、医療行政を立案・実施する行政側の考え方を早急に改革しなければ、医療現場はスムーズに医療の目指すあり方を維持出来なくなるのです。これは、医療現場の問題でなく、それぞれの業態で、それぞれ固有の課題があると思われますので、種々多様な機能・能力のある労働者を職場に確保していくためには、規則や法律を新設、改善するのも必要でありますが、それ以上に従来正しいと思われていた考えや体制を見直し、あらゆる人を受け入れることが必要であると強く考えるようになりました。


投稿日時:(425ヒット)

鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

新年明けましておめでとうございます。
年頭にあたり、今年の社会情勢をみながら産業保健の進む道を予想してみたいと思います。
「産業保健」は職域で働く人を対象とした健康問題の対策をする事と健康管理の知識を普及し、必要で適切な技法を実践し、「労働者の健康に貢献すること」にあります。そして、この分野に関連する対象人口は国民の8割にもなり、公衆衛生活動の最も大きな対象集団であります。労働者の健康管理は近年の就業構造の多様化により急速に変遷しています。明治時代の感染症対策、特に結核対策に始まり、職業現場でおこる特異的な有害ばく露要因による健康影響の調査、臨床診断、治療、そして予防対策を講じてきました。そして、これらに関する研究開発により職業性疾病等を減少させてきました。
最近では、人口の少子高齢化にともない、労働者も中高年齢者が増加し、循環器疾患やがんに罹患する或いは罹患しながら就労を可能にする職場の体制づくりが課題となっています。

そして、労働形態の多様化によって顕著となってきたストレス対策としての「メンタルヘルス予防事業」、更に日本の文化としては、「よく働く事を美徳」としてきましたが、働き過ぎる事が良くない(パラダイムシフト〔従来の常識を全く新しいものに替えること〕)と考えるようになった事と、いわゆる事務的で規定通りに行う作業はコンピューターに任せたり、価値を生みにくい作業はAI(人工知能)に代替しようという新しい「産業革命」が進行しています。

これに合わせ過労死裁判以降は、事業主も、労働者が疲労や心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康を害することが無いように注意しなければならない事を認識するようになりました。

この働き過ぎを当たり前とする考え方は政治主導で起こったグローバル資本主義に負けまいとする政策と新自由主義思想の普及によるものでありますが、この働き過ぎ等による健康障害の発生は、本質的な資本主義の欠陥と問題点が表面化してきたためでもあります。
経済分野においては、自由競争の中で上手に稼ぐことが資本主義の正義であると考えるため、自由競争で敗れたら職を失うことになり、その事は自己責任であるとし、かつ格差拡大の政策を正当化するようになりました。
企業もこの自由競争の中におかれ、事業主も負けまいと努力することとなり、その結果、企業経営のための「積極的経費節減」と「非正規労働者」の雇用拡大、そして労働時間を守られない等の「労働強化」を推し進めざるを得なくなっているのです。
こうした事が「ブラック企業」を出現させる一因となっています。
日本社会での資本主義、自由競争は、心豊かに暮らせる社会を作ろうという国民的合意のもとに発展し、格差の少ない中流的資本主義が実践され運営されてきました。

しかし、年末から年始にかけて米国大統領候補のトランプ氏による政策的発言に世界が影響を受け、いわゆる政界・財界にトランプ現象が起こっています。新しい米国中心の世界経済情勢により、日本国内の価値判断基準が変化し、労働環境に影響を与えることが予想されます。

こうした動きの中で、日本的価値判断基準をもとに考えられ、労働者の福祉の向上に貢献する事を目指してきた日本の「産業保健」をどのように構築していくのか、今日では先行き不透明な面もありますが、適切に対応していくことが必要であり、まさに正念場となる年と考えています。