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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

病気の予防や予後(転帰)について、今まで多数のことが研究されたり、臨床の現場で患者への説明につかわれています。また、病気の発生に関連する要因(広い意味での原因)も解明され活用されています。
感染症のように病原微生物の関与がなければ発症しない疾病などについては原因物質が比較的分かりやすいのですが、(しかし結核菌に感染しても結核症を発症しない人も多くあることも考慮に入れておくことも必要です)、病因が多数関与する場合(多くの病気はこの方が多い)には、病気の予防は単純ではありません。
発病についても、集団を対象として解明される確率(発病割合)で推測し、考えて説明するしかありませんが、個人一人一人にとっては発病した場合、集団確率で発生したのではなく、発生確率は100%です。

産業保健事業においては、病気の治療と職業生活を両立させて支援することにより、労働力不足が起きないように対策が急がれます。
しかし、これについては就労可能どうかを判断する医学的知見が明らかにされていなくてはならないのですが、一般的に多くの病気を個人的レベルにあてはめてみると次のような事が分っていません。
①治療を行うことにより、病気が就労可能な状態まで改善されているかどうか。
②病気の進行が、労働者の社会生活や就労を困難にする程度になるまで、どのくらいの期間がかかるのか。
③障害を残さないで就労可能な状態になるまで治癒するのか。
これらの事がある程度究明されていないと、休業措置や就労復帰の予測や判断の際に、一律にはいかない状況にあります。

病気の予防は、発病に関与する要因が多数あっても、主な要因がある程度分かっていればばく露させない事が可能です。
しかし、例えば、「たばこの喫煙」と「肺がん」の発生の関連は明らかになっていますが、「喫煙していない人」も肺がんを罹患するので、人体に影響を及ぼす要因と人体影響を明らかにすることは難しいのです。

また、「メンタルヘルス関係」の就労支援、特に「職場復帰」については、専門医を受診し主治医が職場復帰可能と診断されても、産業医も復帰可能とは判断しにくい場合があります。例えば一例として発達障害があり職場不適応となる若い労働者の場合でも、環境要因(出産時の親の年令、合併症などの要因も含む)や、遺伝要因などが絡んで発症しますし、類似の診断名が多く、専門医であっても診断名が一致しない場合や病気の状態が就労中や休業中などの環境要因の変化によっても症候が変動する為、同一の医師であっても診断について病気の経過中に異なる事例があります。

産業医は、職場復帰や就労支援を行う場合、職場の状況や個人的要素などを考慮して、たとえ治療中であっても職場に適応できるか、或いは職場が配慮できるかなどを考え、場合によっては事業主と職場環境の改善の可能性について相談しつつ判断をすることになります。
これらについて職場の同僚や関係者に理解できるよう説明し、了解を得る体制を整える努力をしないと、治療と就労の両立支援やメンタルヘルス不調者の職場復帰を可能にすることは出来ないと思います。

今まで医学では携わってこなかった難しい分野でありますので、不十分ながらも実践しつつ改善し、研究・研鑚をつむことにより目標が達成可能となることを願っています。