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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

職場の健康管理は、いわゆる職業病(生産活動に従事することによって発生する健康障害で、腰痛症、騒音性難聴、振動障害、鉛中毒、じん肺症等をいう。)に限定せず、私傷病とされていた生活習慣病(一般に生活習慣が原因で発症する健康障害で、高血圧、脳卒中、心臓病、がん等をいう。)も作業関連疾患の範ちゅうに入れて対応することにより、これらの疾病の予防を含め、積極的に健康増進を推進するようになりました。さらに、職場の種々のストレスや人間関係に起因する心の健康の障害予防や改善に努めることが、メンタルヘルス対策として今日的主要プログラムになり、新たにがん患者などが治療をしながら就労が可能な環境をつくるなどの就労支援事業が実践されています。

このため、雇用時の健康診断や毎年の定期健康診断では健康診断で実施される医学的検査の結果が正常かどうかに注目されがちでしたが、それよりも労働者の健康状態を把握することによって、労働時間の短縮、作業転換、配置換えなどの健康診断の事後措置に役立てることが必要なので、①既往歴および業務歴の調査、②自覚症状および他覚症状の有無の調査が一層重要なものになっていることに気づかされています。

①既往歴および業務歴の調査は、今日では一事業場での永久就業は少なくなり、今現在の企業に採用されるまでに数種の職業に就労してきた労働者も珍しくなくなりつつある現状では、直近に実施した健康診断の結果を活用し健康状態を判断をするだけでは、健診事後措置に役立てるのには、不十分となりました。労働者を適正に配置するためには、以前の就業歴、既往疾患、服薬歴、喫煙・飲酒歴を把握し、かつ、現在罹患している疾病の状況も把握する必要があります。それによって就業以前の健康状態を調査し必要に応じて人事配置を考慮する事により、生活習慣病などの憎悪を予防するように努める必要がでてきました。

②自覚症状および他覚症状については、検査の基本は視診、聴打診、触診などの臨床診療手法による他覚所見検査を行い、そして既往歴、業務歴、生活状況、家族歴などと、就業するあるいは、就業している作業場の巡視の状況などと照合してさらに必要な検査項目を追加して選び、総合的に判断をしています。

特殊健康診断においては、取扱う化学物質や従事している作業環境などの健康影響の情報を把握し、労働者本人に中毒や障害の内容を説明するとともに関連する他覚所見を診察、記録しておいて、その後の障害等の判定や健康管理に活用するように努めています。

この①②の検査を行うとともに、その他の健康診断項目すなわち身長・体重・腹囲・胸部エックス線検査、血圧測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図を医師の判断により実施しますが、医学的に異常値のみのチェックを目的に行うのではなく、毎年同じ検査をくり返し行い変化の把握と作業環境の改善などの事後措置に役立て健康管理を行うことが、時代の変化に合わせた健康診断の現実的活用と考えています。このような理由から労働者の皆様には健康診断をぜひ毎年受けていただきますようにお願いいたします。