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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和7年7月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

『「令和の米騒動」と「天才」』

米の値段が高騰し、「令和の米騒動」という状況になっている。日本の米の年間消費量は、
およそ700万トン、世界で9番目の消費量である。ただ、一人当たりの年間消費量は、1962
年をピークに一貫して減少傾向にある。1962年118.3キロだったのが、2022年には50.9キロ
まで減少した。米の高騰により、消費者の米離れが進むことが懸念される。

米離れといえば、私の故郷、香川県、讃岐国は、元々コメ離れした地域といえよう。讃岐
国は瀬戸内式気候で降雨量が少なく、大きな川もないため絶えず干ばつに悩まされた。水田
による米の安定的な生産が出来ない土地であった。そのため米は贅沢品であり代用食として
麦などが生産されるようになったようだ。その代用食は現在「さぬきうどん」として全国的
に知られるようになった。「さぬきうどん」の創始者は郷土の偉人で「多才な天才」と称さ
れる弘法大師・空海と伝承されている。唐に留学した大師は、密教だけでなく先端の土木・
治水技術も習得し、帰国後、讃岐国に戻って水田の水を確保する満濃池(日本最大の灌漑用
のため池)の大改修工事に携わっている。同時に唐で盛んであった麺料理の製法も伝授した
と伝えられる。

このような天才の逸話は、イタリアにもある。「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチと
地中海式食事の代表的米料理リゾットとの関係である。ヨーロッパは気候風土から、米では
なく麦の生産が主である。500年前、北イタリアの領主は、ポー川流域にある未開発の低湿
地帯で米づくりを試みていた。米の大規模な生産のためには、灌漑施設が必須であった。
レオナルド・ダ・ヴィンチがこの灌漑施設の構築に貢献したという説である。彼の手稿には、
水路の設計、運河の建設、水力機械のスケッチなどが含まれており、彼がミラノの近郊を流
れるポー川の水路計画に携わったという記録が残っているからだ。現在、ポー川流域は、毎
年150万トンの米が生産されるヨーロッパ最大の米の産地となっている。ここではじまった
米づくりが現在のリゾットにつながるのである。

「令和の米騒動」の決着は、現時点では定かではない。米の高騰の原因として、減反政策、
生産コストの急激な高騰、生産調整の失敗、農家の高齢化と後継者不足など、政治・経済的
要因が指摘されている。日本の自然風土を考えれば、米が主食であることに変わりなく、米
の生産力が不足しているわけでもない。「令和の米騒動」は、天才の知恵を借りるまでもなく、
解決できる問題だろう。