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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和5年9月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「最も暑い夏」

 

気象庁によると、今年の6月から8月まで3カ月間の気象の記録で、夏の平均気温が過去126年で最も暑くなったことが分かった。平年と比べて1.76℃高くなり、各地で最高気温35℃以上の「猛暑日」の日数が過去最多を更新した。さらに、最高気温37℃以上の体温越えの日も頻繁にみられるようになった。

20年ほど前に鳥取大学乾燥地研究センターの人工気候室を用いて高温低湿度環境における自覚症状や発汗について調べていた。当時、サウジアラビアで国外からの巡礼者に熱中症が多発してその対策が課題だったことや、乾燥地で活動するセンターの学生や研究者の熱中症の予防という観点から乾燥地保健として行っていた研究である。人の感じる暑さの感覚や発汗を気温37℃で相対湿度20%と40%で比較した。気温37℃相対湿度20%は、乾燥地を想定したものである。湿度40%では、かなり暑く感じ活動しづらいと感じる環境であったが、湿度20%では、暑さはそれほど感じず、活動可能な環境であった。それは、高温でも低湿度なので、汗がすぐに蒸発して気化熱で効率よく体温上昇が抑制されるためであろう。しかし、高温下で暑さを感じないことは、要注意である。高湿度環境の国の人々が高温乾燥地の活動中多量の汗をかいても、発汗した自覚に乏しいので、水分補給が遅れ、脱水症さらに熱中症になりやすいと考えた。そのため、乾燥地での熱中症の予防対策として、定期的な塩分を含んだ水分補給例えば、30分から1時間おきにコップ一杯程度摂取することが重要であるとまとめた。

今年の山陰は、最高気温37℃以上湿度50~60%前後の日が続いたが、暑さ指数WBGT値に簡便法で換算するとWBGT値32~34となり日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」の「危険」に該当する。屋外での労働、スポーツや外出をひかえることが推奨される暑熱環境である。ちなみに気温37℃湿度20%、湿度40%のWBGT換算値は、それぞれ、WBGT値27(警戒)、30(厳重警戒)である。湿度が変わると暑さの感覚だけでなく熱中症の危険度も大きく変わる。異常高温下で湿度が高くなると、多量の汗をかいても気化しにくいので、体温上昇を抑えることが困難となる。今後も暑い夏が進行するとすれば、屋外活動の厳密な制限や対暑熱保護服の着用の義務化をはじめ社会全体で様々の対応が必要になるだろう。

先に述べた実験では、当初実験条件として気温37℃相対湿度20%、40%、60%の比較を検討した。結局60%は設定しなかったが、その理由は、気温37℃相対湿度60%は安全性の懸念があったこと、稀な特殊環境で日常的な環境として想定できなかったことである。