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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和5年11月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「今年のノーベル賞」

 

今年(2023年)のノーベル賞では、3人の女性の活躍が目立った。医学生理学賞はハンガリー人
のカタリン・カリコ氏で、新型コロナウイルスのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの開発
で大きな貢献をしたことが授賞理由である。ハンガリーのセゲド大学での「mRNA が免疫系によ
る癌組織の認識と破壊にやくだつか?」という講義に興味を持ち、その後一貫して RNA研究に取
り組んできたと紹介されている。ハンガリーでは、思わしい研究成果があげられず、研究費が得
られなくなった。そのため、研究費を求めて、アメリカに移る決断をしている。なけなしの全財
産900ポンドを2歳の娘が持っていたテディベアの中に隠して出国したという逸話が残っている。
その後、ペンシルバニア大学に移り、免疫学者ドリュー・ワイスマンと出会い、今回の受賞対象
となる研究成果を上げている。しかし、ペンシルバニア大学でも、研究費が打ち切られている。
母国をすててまで、一つの研究テーマに打ち込む姿勢には驚かされる。

ノーベル経済学賞は、アメリカのクラウディア・ゴールディン氏が受賞した。「労働市場に
おける男女格差の主な要因を明らかにしたこと」が授賞理由である。長年にわたる多数の論文
が業績に該当するため、その業績全体を簡潔には説明できないようである。業績の一つに「グリー
ディー・ジョブ」(強欲な仕事)があげられる。労働時間が長いほど時給が上がり(直線的で
はなく曲線的に増加)、評価される。これが、過重労働対策のむつかしさや男女の賃金格差の
一因ともなっていると指摘する。彼女は、1990年にハーバード大学経済学部に着任し、同学部
で初めて、女性として終身在職権を獲得された。70歳を超えた現在もハーバード大学経済学教
授である。

ノーベル平和賞は、イランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏で、現在収監中である。
最近、刑務所でハンガーストライキを始めたと伝えられている。治療のために病院に行く際、
頭を隠すスカーフを着用することを拒んだため、当局は病院に行かせなかったことに抗議した
ことが理由のようだ。3人の受賞者の気力・胆力に感服するほかない。