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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和2年12月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

厚生労働省は令和2年3月に「エイジフレンドリーガイドライン」を策定しました。策定の背景には、60歳以上の高齢労働者が増加しており、高齢労働者の雇用にあたって、転倒災害、墜落、転落災害などの防止を図るために職場環境改善の取り組みが必要となっているからです。

人間は「立つ」「歩く」という直立二足歩行を基本的な移動様式とする動物です。直立二足歩行は前方に倒れるようにバランスを崩して、踏み出し、遊脚を接地して前進する不安定な移動様式です。もとより二足で直立することもバランスを崩しやすいので立位作業などによって労働者が転倒したり、それによって骨折することは回避しにくいことです。さらに高齢者になると、筋力の低下(フレイル)、認知機能の低下、視力の低下、聴力の低下、動作時のバランス機能低下、立ちくらみがおこるなど転倒リスクが増加します。

転倒をおこす出来事は、①服の裾がひっかかる ②じゅうたんや座布団の端につまずく ③踏み台にのってバランスを失う ④階段を踏み外す ⑤床で滑る ⑥頭の上の棚に頭をぶつける ⑦ベッドから落ちるなどがあります。このため、作業環境改善こそがこういった出来事を予防するのに必要です。今までも作業安全を目的に改善が行われていることはありますが、労働者のバランス機能維持や自分の機能の認知を促す対策は少ないと思います。そのため職場において、健康診断の機会などに次のような体力チェックを取り入れることが大切です。

体力チェック項目は簡便にできる①握力検査(持っているものを落下させたり、下肢筋力低下により転倒しやすくなるので、直立して測定して全身の筋力状態を知る簡単な方法です) ②開眼片足立ち検査(65歳で片足時間が60秒以上できれば合格とする) ③10m障害物歩行検査 ④重心動揺測定などは時間もあまりかかりませんのでおすすめです。

また主に座位の事務作業の人には①立ち上がりテスト(40㎝の椅子に座って片脚で立ち上がる、左右の脚で3回ずつ) ②踵上げテスト(立位でゆっくり踵を上げ下げする、20回を1日1~2セット行う) ③壁ストレッチテスト(壁を背にして立ち、背中をそらし、両肩、手を挙上させて壁に近づけて静止する、10秒間を10回) ④ウオーキング(姿勢と速度が重要で、廊下や庭など2分間やや速歩で歩幅を広めにして、姿勢を保ちながら1回以上行う)など、工夫すると種々ありますので職場の皆さんで一緒に実行して下さい。

これらはロコモティブシンドローム(運動器官の障害によって移動機能が低下した状態)の予防、運動機能療法で行われているリハビリテーション項目の一部で、手軽に実施でき、おすすめです。

若い労働力不足を高齢労働者の労働力で確保するため、またエイジフレンドリーガイドラインの主旨を可能にするために身体機能チェックを実践しましょう。