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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和4年6月によせて 

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

「新しい資本主義」ということが提言されていますが、その詳細は明らかになっていません。労働関係分野の内容には、「働き方改革」に含まれていなかった男女の賃金格差の解消などが含まれているようです。このことを実現するためには、1日8時間の労働時間などにこだわらない多様な雇用形態の確保と、公正な待遇の確保のため賃金算定方式の導入など、今までの労働基準法のルールなどを変更しないと対応困難であると考えます。

そして、日本の経済は、高度経済成長期によく言われた、「働かざる者食うべからず」という勤勉で人生をかけてモーレツに働くことを美徳とした日本文化に支えられて、右肩上がりの経済大国に発展を遂げました。しかし、長時間労働は当たり前と考え、労働者を酷使してきたことを改善しなかったため、次の世代には受け入れられず、労働生産性が低下し、先進国の中でも生産性が低い位置になっています。

そして、世界経済の動向は当然日本の経済活動及び労働環境に大きく影響を与えますので、産業保健の分野においても注視しておくことが必要です。例えば、世界で大流行(パンデミック)したコロナ感染症により、日本でも起こったコロナ禍の生活不安の改善策としてとられた政策の一つに、定額給付金(国民一人一人に10万円給付)の支給など、財源を国債の発行や税収入としているため、国の借金が増加し、ひいては国民の経済にも影響が現れることが考えられます。

また、財政再建にマクロ経済理論の考え方を取り入れ、自国通貨を発行している国はいくらでも貨幣を刷って(金本位制を変える)借金しても良いという政策が行われています。退職後の年金への影響がこれもまた心配です。

そして、テレワークなど、IT化(デジタル化)によって業務効率化(人と人とのコミュニケーションが希薄になる)が、多くの業種で活用されるようになりました。

特に社員同士の結びつきが強い中小企業等の日本型企業体質には、仕事の成果のみを評価し、結果の良いものが高い給料を得るという、いわゆる生産性を重視する欧米型合理性はなじみにくいと思います。

また、ロボットやコンピューターを活用した生産性向上に重点をおいた生産方法は、労働形態に影響が出てくるものと思います。
その上、今はロシアとウクライナの対立で始まったウクライナ戦争に、NATO諸国などが巻き込まれていますが、資本主義と社会・共産主義、自由主義と専制主義、それに内在する民族対立など社会政治体制の対立が第二次世界大戦のときのように再び世界の秩序を混乱に巻き込み始め、終息の予測が見込めない状況です。しかし今後どのような新しい秩序になろうとも、また、新しい感染症とも共存して世界が不況から脱出するには、人間社会は経済・産業の発展が無くては持続しません。そして、産業の復興には、労働力の再生、維持、向上が必須です。更にそのためには、どんな状況であろうとも労働環境を快適に維持することが必要です。

いうまでもなく産業保健事業は、働き方改革の基本的考えのように、人間である労働者が快適で楽しく働ける労働環境を構築することを目指しています。

私の所長のページは、今月で最後になりましたが、鳥取産業保健総合支援センターは産業保健発展のために事業を継続して推進してまいります。
皆さまにおかれましては、当センターを引き続き活発にご利用いただきますことを期待してお礼と致します。長年ありがとうございました。