平成20 年度 産業保健調査研究

総合病院看護師の勤務条件と職業性ストレスおよび疲労蓄積との関連についての調査

主任研究者 鳥取産業保健推進センター 相談員 芦村 浩 
共同研究者 鳥取産業保健推進センター 所 長 川﨑 寛中
鳥取産業保健推進センター 相談員 井上 雅勝

Ⅰ 調査の目的

本調査は、総合病院で働く看護師の健康問題について理解を深めるために、勤務条件と疲労蓄積および職業性ストレスとの関連性の実態を明らかにし、病院組織で取り組むべく看護師の労働条件の改善および健康障害の防止について、具体的対策を講じていくための基礎資料として活用することを目的に実施した。

Ⅱ 調査の対象と方法

鳥取県内にある総合病院から6 施設を選定し、そこに勤務する看護師1903 名を対象に、質問調査票(自己記入による記名方式)を用いて実施した。 質問内容は、属性、勤務状況、健康状況、および職業性ストレスに関する質問で構成した。なお、職業性ストレスに関する質問は、57項目から成る「職業性ストレス簡易調査票」をそのまま使用し、調査終了後親展の封筒へ入れ個人情報が漏れない方法で本人にフィードバックした。本調査では、対象とした看護師1903 名のうち、回答のあった1613 名について集計した。(回収率84.8%)

Ⅲ 調査結果の概要

1.対象者の属性

対象者は、1613 名の看護職員で男性55 人(3.4%)、女性1558 人(96.6%)であり、年齢構成では、20 代666 人(41.3%)が最も割合が高かった。また勤続・経験年数は共に10 年以上の看護師の割合が高かった。

2.対象者の勤務状況

対象者の勤務場所については、内科系病棟365 人(22.6%)、外科系病棟396 人(24.1%)、混合病棟を含むその他の病棟330 人(20.5%)、ICU・救急226 人(14.0%)、外来150 人(9.3%)、手術室113 人(7.0%)と続く。勤務形態では、3 交替勤務が833 人(51.6%)、日勤448 人(27.8%)、2 交替勤務318 人(19.7%)であった。

① 2 交替勤務者の状況
2008 年6 月の勤務における、2 交替勤務者の夜勤回数は、月3~4 回に集中しており、平均24.4 日であった。夜勤時の平均休憩時間は、「30~60 分」が148 人(46.7%)、次いで「60~120 分」が81 人(25.6%)であり、平均は80.66 分であった。また、夜勤時休憩時間中の平均仮眠時間は、「30 分から60 分」が124 人(39.0%)、次いで「60 分以上」が120 人(37.7%)であり、平均仮眠時間は69.38 分であった。「仮眠時間なし」の回答者が23 人(7.2%)あった。

② 3 交替勤務者の状況
2008 年6 月勤務における、3交替勤務者の準夜勤務の回数は、4~5 回が65%を占め、月平均4.5 回であった。準夜勤務時平均休憩時間は、「休憩なしを含む30 分以下」が80.5%と約8 割にのぼった。また深夜勤務の回数は、4 回が357 人(43.0%)と多かった。深夜勤務時平均休憩時間は、529 人(63.8%)が「休憩なしを含む30 分以下」がとし、「60 分以上」と答えたのは44 人(5.3%)にすぎなかった。さらに深夜勤務時の平均仮眠時間は、「なし」と答えたものが559 人(87.5%)で全体の9 割近い看護師が休憩をとっていない状況である。

③ 日勤時の休憩時間
2008 年6 月の日勤時の平均休憩時間は、「30~45 分」が887 人(55.7%)と最も多く、日勤時の平均休憩時間は37.9 分で、45 分を下回っている。

④ 時間外労働
2008 年6 月の時間外労働について、「時間外労働なしを含む10 時間未満」が60.3%と全体の6 割を占める。なお45 時間以上は29 人(1.8%)であった。

⑤ 年次有給休暇の取得について
調査前年(2007 年1 月から12 月)1 年間の有給休暇の取得総日数についてたずねたところ、有効回答数は1154 件であった。「6~10 日」の取得の割合が高く、全体の45.4%(524 人)を占める。なお、平均取得日数は、8.95 日だった。

3.対象者の健康状況

① 健康状況について
健康状態について、853 人(52.9%)は「良好である」と自覚している。「不調である」「やや不調である」具体的理由(自由記載)として、871 人の回答を得たが、その結果「疲労感」が179 人と最も多く、次いで「腰痛」、「不眠・睡眠不足」、「頭痛」、「肩こり」、「倦怠感」といった疲労感・疲労に伴う身体愁訴をあげる回答が上位を占めている。
② 平均睡眠時間
平均睡眠時間は、「6 時間」が730 人(45.3%)と最も多かったが、「5 時間未満」と答えた看護師は77 人(4.8%)あった。調査平均は6.05 時間だったが、看護師の睡眠時間がやや不足していることが伺える。
③ 身体的疲労感・精神的疲労感
身体的疲労感・精神的疲労感について共に、「とても感じる」「やや感じる」をあわせて9 割以上の看護師が疲労を感じている(身体的疲労93.8%。精神的疲労91.9%)。
④ 仕事での強い不安・悩み・ストレス
仕事での不安・悩み・ストレスについて、「いつも感じる」「やや感じる」をあわせて88.4%が自覚している。
⑤ 疲労の回復状況
仕事で疲労を感じたときの回復状況について、「翌日になっても疲労が残ることがいつもある」「よくある」「時々ある」と回答したのが87.5%にのぼり、看護師は疲労回復が翌日にずれ込むと答えている。なお、「一晩睡眠をとれば翌日には回復する」と答えた看護師は201 名(12.5%)に過ぎなかった。

4.職業性ストレス簡易調査

職業性ストレス簡易調査票は、仕事のストレス要因(17 項目)、ストレス反応(9 項目)、修飾要因(社会的支援9 項目、満足度2 項目)の計57 項目からなっている。評価方法は、標準化得点を用いた採点を行い、5 段階評価で実行した。職業性ストレス要因を中心に分類した結果、看護師では1613 名中1059 名(65.7%)は、判定1(5 段階評価のうち最もストレス度が高いもの)に入る高いストレス要因を1 つ以上示しており、このうち428 名(26.5%)にストレス反応をみた。

① 仕事のストレス要因
ストレスの原因と考えられる因子について、「高い」「やや高い」を合わせた「ストレス要因を感じる割合」は、「仕事の質的負担」と「身体的負担」が最も高く、ともに8 割を超えている(仕事の質的負担81.4%、身体的負担81.7%)。次いで「仕事の量的負担」が47.3%と高かった。

② ストレス反応
ストレスによっておこる心身の反応について、「高い」「やや高い」を合わせた「ストレス反応が高いと感じる割合」は、「疲労感」が44.1%と最も高かった。

③ 社会的支援度
ストレス因子とストレス反応との関係を修飾する因子について尋ねた。調査結果からは全体的に社会的支援が得られ、満足度も得られている。

5.勤務条件からみた特性別愁訴

勤務条件と健康状況について検証したところ、健康状態について、内科系病棟では「健康状態が良好」である割合は、他の勤務場所と比べて低く、「身体疲労感」「精神疲労感」「不安・悩み・ストレス」愁訴については高い状況にあった。
また、勤務形態からみると、「健康状態が良好」である割合の高かったのは2 交替勤務であり、「身体疲労感」「精神疲労感」「不安・悩み・ストレスの愁訴」についても他の勤務形態と比べ、愁訴率は低かった。
職業性ストレス簡易調査における心身のストレス反応についても、勤務場所では内科系病棟の愁訴率が高く、勤務形態では3 交替勤務の愁訴率は高く、2 交替勤務の愁訴率は低いという結果であった。

Ⅲ 考 察

今回の調査結果から、看護師の疲労状態について勤務条件と疲労とストレスとの関連を検討した結果、勤務形態、勤務場所との関連が深いことが明らかとなり、総合病院看護師の心身にかかる負荷の大きさを再認識することができた。
対象者の身体的疲労感、精神的疲労感、疲労回復状況は、とくに内科系病棟・3 交替勤務において他の群よりも高い値を示したことから、職場での忙しさや労働負荷の大きさが、看護師の疲労に強く反映するものと思われる。職業性ストレス調査結果においても、「仕事の負担」と「疲労感」との関連に同様な結果が得られた。
産業保健の視点から考えると、労働者である看護師は、患者にサービスを提供する者であるが、患者の安全や健康の確保を優先するあまり、看護師自身の健康管理がないがしろにされることがある。さらに、看護業務は交替制勤務にみられるような不規則な労働条件で成り立っている。そしてストレス・疲労が蓄積されているにも関わらず、それを回復する間もなく労働負荷がかかるといった負の連鎖があることは否めない。このような状況が継続された場合、離職やバーンアウトといった問題も示唆されるため、健康管理について看護師自身が考えていくとともに、病院組織全体として勤務条件の検討、職場環境等の改善への積極的取り組みが急務とされ、適切な労務管理および、快適職場環境が不可欠であることを認識する必要がある。
なお、今回の調査は、あくまでも対象者の自覚症状の調査の一つであり、客観的なデータとしてのストレス・疲労を反映されたものではないこと、また疲労の原因が職業性によるものに限定されているとはいえないため、調査結果には限界がある。たとえば、子育てに伴う負担、看護業務やそれ以外の教育研修・委員会等の業務の負担が加わり、職業性ストレス・疲労が増していることも可能性の高い要因の一つとして考えられることから、今後の追跡調査・検討が必要であると思われる。