平成17年度調査研究報告(抄録)

鳥取県内の中規模事業場における過重労働の実態と産業医の取り組みに関する調査

主任研究者 鳥取産業保健推進センター 所 長 長田 昭夫
共同研究者 鳥取産業保健推進センター 相談員 芦村 浩 
鳥取産業保健推進センター 相談員 井上 雅勝

Ⅰ.調査の目的

 本調査は、鳥取県内の中規模事業場の過重労働の実態を明らかにし、産業医、事業主等が過重労働による健康障害の防止について、具体的対策を講じていくための基礎資料として活用することを目的に実施した。

 

Ⅱ.調査の対象と方法

 鳥取県内の産業医及び事業場を対象に、調査票を郵送し、期日まで調査機関に直接返送する方式により実施した。事業場を対象とした調査では、調査対象481事業場のうち、回答のあった264事業場について集計した(回収率54.9%)。また、産業医を対象とした調査では、調査対象産業医339名のうち、回答のあった186名について集計した。(回収率54.9%)。

 

Ⅲ.調査の結果

1.事業場の過重労働に関する調査

①事業場における産業保健活動の実態

 衛生管理体制の確立が義務付けられている労働者50名以上の事業場は248社であった。そのうち「衛生委員会を毎月開催」している事業場は160社(64.5%)、 「産業医の来所回数が月1回以上来社」とする事業場は86社(34.7%)であった。
 産業医の職務である職場巡視の実施、月1回の開催が義務付けられている衛生委員会の活動等、事業場における衛生管理活動は十分な機能を果たしていないという現状が見られた。

健康診断事後措置について、229社(86.7%)が産業医への依頼をしていると答えており、その内容は、「労働者に対する診断結果について通知」が169社(64%)、次いで「有所見者の診断結果について意見を聞く」が157社(59.5%)、「必要な労働者に対する医師等による保健指導」が147社(55.7%)であった。「健診結果に基づく就業上の措置」は40%に満たない。

②事業場における過重労働の実態

 全体の97.7%(258社)の事業場は、個々の従業員の労働時間について把握しているとしている。 「1ヶ月に100時間又は2~6か月間に平均80時間を超える時間外・休日労働がある」事業場は26社(全体の9.8%)、「現在はないが今後このような長時間労働を行う可能性がある」が22社(8.3%)、両者を合わせた48社(18.1%)に過重労働による健康障害のリスクがあるといえる。

 「当該時間外あり」と答えた事業場のうち、現に長時間労働を行った労働者に対し、「産業医等の面接による保健指導を実施する制度あり」と答える事業場は15社(57.7%)あり、「面接以外の保健制度の実施」が3社、「健康指導の制度を検討中」が2社であった。

③過重労働に関する事業場の認識

 現在、過重労働があると実感している事業場は70社(26.5%)、過重労働は感じていないと答えた事業場は194社(73.5%)であった。「実感している」事業場の内訳は、300人以上の事業場の比率が高い。                                                            過重労働があると実感している事業場のうち、「過重労働と思われる勤務内容と作業環境」は、「時間外労働や休日労働を含む長時間労働」が70%、次いで「交替制勤務・深夜勤務」が34.3%であった。過重労働があると実感している事業場のうち、「長時間労働の原因」は、「特定者に業務量の偏り」が58.6%、次いで「人員の不足」が38.4%であった。                              

 「過重労働」によって脳・心臓疾患、精神疾患の発症のリスクがあることを知っている」事業場は94%と、認知度は高いほうであった。 「衛生委員会において過重労働について審議」している事業場は133社(50.4%)であった。

 健康確保のために重視し、実際に対応している事項については、「健康診断の完全実施」が97.3%と最も多く、次いで「健康診断事後措置の完全実施」が62.9%、「喫煙対策の実施」が51.1%となっている。作業環境管理、作業管理の側面にたった対応は、4割弱の事業場に見られるに過ぎなかった。

 心身の健康確保を実施する上での問題点は、39%の事業場で「時間の確保が困難」としており、次いで「労働者の関心が得られない」が27.7%、「適当な人材確保が困難」が25.0%、「効果的な実施方法がわからない」が24.6%などとなっている。

2.産業医の過重労働に関する調査

①過重労働又は疲労蓄積に関する産業医の把握

 産業医が引き受けている事業場において、従業員の過重労働又は疲労蓄積について、67人(36.0%)が「把握している」と答えている。                                     その把握方法は、「管理者からの報告」が44人(65.7%)と多く、次いで「健康診断結果」が39人(58.2%)、「面談」が27人(40.3%)、「従業員からの報告」が21人(31.3%)となっている。その他、「アンケート調査」、「生理的検査」により把握する医師もあった。                          また、どのような対応を行っているかの質問に対し、「健康状態に問題がないのでそのままにする」という回答が28人(41.8%)と多く、「過重労働をやめるよう上司に伝える」が18人(26.9%)、「本人への確認」が14人(20.9%)、「本人への指導」が14人(20.9%)であった。

 産業医が引き受けている事業場において、従業員の過重労働又は疲労蓄積について、55人(29.6%)が「把握していない」と答えている。把握できない理由として、「把握の方法がわからない」が18人(32.7%)、次いで「過重労働が存在しない」が17人(30.9%)、「把握するための時間がない」が16人(29.1%)であった。

 従業員の過重労働または疲労蓄積を把握している産業医で、45名(67.2%)が「事業主へ勧告を行っている」と答えている。また、59人(88.1%)は「保健活動を行っている」としている。

②過重労働対策の認識

 「過重労働による健康障害防止の対策における事業者の講ずべき措置」について、知っていると答える産業医は63人で全体の33.3%に過ぎず、認知度は低い。 また、過重労働に関する研修会に参加したことがある医師は60人(32.3%)であり、現に産業医として活動している医師においても48.8%と半数に満たない。

 

Ⅳ 考察

 今回の調査結果から、過重労働に関する事業場の認知度は高かったが、健康障害を防止する観点からの労務管理と健康管理との関連が不十分であるという実態が認められる。また、事業場の過重労働対策について産業医の認識がやや不足していることも認められた。これは、事業場の産業保健活動に関わっている産業医が少ないこと、事業場が産業医の 活用を十分にされていないことを示唆すると思われる。                                                        このため、当センターとしては、今後とも、産業医および産業保健スタッフに対する「過重労働による健康障害防止対策」の進展を図り、また「心の健康保持増進指針」の周知を図るなどメンタルヘルス対策の推進に努めることが課題とされる。