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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

いよいよ今月で令和元年の最後の月となりました。
今年は産業保健行政の改革の目玉として4月1日に「働き方改革関連法」が施行されました。
いくつかの注目すべき内容がありますが、そのなかであまり話題にならない内容に「産業医・産業保健機能の強化」があります。
これは「産業医」という資格をもった医師の存在があまり知られていないのが、その理由の一つと思われます。今回の安衛法の改正では産業医に関する規定が整備され、事業主に産業医の業務内容を従業員に周知させる義務を新たに設けました。そこで事業主や労働者のみなさんに知ってもらう必要があるため、産業医関連の内容を解説します。

まず、医師は医師国家試験に合格すると医師免許が与えられ、独占的にすべての医業を行うことが可能となります。
免許取得により、全ての診療科(内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻科、整形外科、放射線科など)の診療や治療行為を行うことができます。

しかし、医学部在学中には免許がありませんので、卒業後の免許取得後でなければ、注射、手術などのいわゆる医療行為は出来ず、そのため免許取得後は、最低2年以上の臨床研修を行ってからはじめて一人前の医療行為が可能となります。
ですが、あらゆる診療科の診断・治療などの診療技術を身につけるためには長年を要しますので、多くの診療科のうちから自分が選択した診療科名を標榜して診療にあたります。その診療科名を標榜をするために特に資格要件はありませんので、どの医師でも内科医であったり、外科医を名乗れます。言いかえれば、内科医が整形外科医や眼科の治療をしても何も問題はありません。

次に産業医についてですが、産業医になるには「事業場において(医療機関内のみでない)労働者の健康管理等を行う産業医の専門性を確保するため」労働安全衛生法第13条に、医師であることに加えて、「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について労働省令で定める一定の要件を備えたものでなければならない」と規定されています。
一定の要件とは、次のように規定されています。
①労働者の健康管理等の知識に関する研修を修了した者
②大学において労働衛生に関する科目の教育を担当した教員
③その他厚生労働大臣が定めた者
(①の研修については、日本医師会の行う産業医学基礎研修や産業医科大学で行われる産業医学基本講座の受講等があります)
つまり産業医の多くは、医師免許取得後に日本医師会の行う「産業医学基礎研修」により産業保健の知識を習得して産業医としての資格を有することになります。

そして、労働安全衛生法第13条に労働者が50人以上の事業場では、産業医を選任することが事業主に義務づけられているため、今回の改革によって、産業医の存在と職務について改めて認識する必要が出てきました。

「産業医」への理解を深めていただくため、まず、産業医の資格要件などを解説いたしました。次回(令和2年1月の所長のメッセージ)は、産業医の職務等について解説いたします。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

今度の働き方改革関連法の施行により、各企業では今までの働き方を見直すことと、働き方を変えることを推進しなければならなくなりました。働き方改革の基本的な考え方は、働く人々が、「個々の事情」に応じた多様な働き方を、「自分で選択」できるようにするための改革です。
現状の労働法制では、正規雇用者の解雇規制が厳しく、雇用調整(解雇など)が難しくなっているため、大企業(派遣先)は正社員の採用を控え、下請けの派遣会社より労働者を派遣社員(非常勤が多い)として受け入れるようになっていました。今まで、派遣元事業主は派遣労働者を派遣先の正規労働者と比較して基本給等の待遇を低く扱っていましたが、この改革により、不合理な待遇で働かせることが禁止され、適切に処理しなければならなくなりました。
改正のポイントの主なものの一つに、長時間労働の是正があります。その内容は、時間外労働(いわゆる残業のこと)の上限を月45時間、年360時間(約1日2時間残業)を原則としましたが、例外として現時点では、自動車運転業務、建設事業、医師などは猶予期間を設けたうえで、また研究開発業務は規制の適用が除外されました。
基本的に、労働基準法では労働時間は1日8時間としているものの、使用者が労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定により、その協定の範囲内で時間外労働が可能となっています。今回の改革の趣旨は、労働人口の減少等により、やむを得ず労働力不足を補うための制度であったのですが、注視しなくてはならないことは、やむを得ない事情がある場合に活用されるはずの時間外労働の上限規制が、労働者の採用当初より条件に組み込まれて、就業機会の拡大や一人一人のより良い将来展望のもてる処遇ではなく、労働強化に繋がりかねなくなっていることです。

事業主は、いわゆる残業を減らす努力をする必要があるため、自社で処理できない業務量の受注や、無理な納期の受注をしないようにすることや、労働者数に余裕をもった経営努力が求められることなどを理解しておかなければなりません。
また、労働時間のことだけではなく、通勤に長時間を要する労働者の疲労等が発生しないように配慮した就労体制をとる必要もあります。
勤務時間インターバル制の導入にあたっても、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するために、前日遅くまで残業したのであれば翌日の始業時間を遅くするなど、柔軟な勤務時間制度をとることが必要です。
裁量労働制の導入にあたっては、業務量が過大である場合(高い成果を求める)や期限の設定(決められた期間に結果を出す)が不適切である場合には、労働者自ら時間配分をする裁量が事実上失われる事があります。裁量労働制の導入の趣旨に適合した適正な導入と運用が事業者に求められます。
このように今回の働き方改革の実際の導入にあたっては、労働者はもちろんのこと事業主も改革の趣旨を理解したうえで推進しなければ改革は実現できないと思われます。快適労働環境を実現するため、頑張りましょう。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

働き方改革関連法の改正項目の一つに「年次有給休暇(有休と略す)の確実な取得」があります。労基法第39条第1項では「雇い入れの日から起算して六ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有休を与えなければならない」とされています。
しかし、年次有休の取得状況を見ると労働者一人平均年次有休取得割合は50%を下回っています。
労働者が有休を取得するためらいがあります。その主な理由は「みんなに迷惑をかけるから」「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」「上司がいい顔をしないから」「昇格や勤務査定に影響があるから」などがあげられ、おおむね想定されていたことであり、これらを考慮し、今回改正が行われました。

改正点は「10日以上の年次有給休暇が付与された労働者に対して、年5日については毎年時季を指定して与えなければならない」とされたことであり、より有休をとりやすくしたことと、残りの5日は今までどおり申請に応じて取得可能としたことです。
また、従来、労働者からの申し出によることが原則であったため、前述の理由などで申し出すら出来なかったが、今回の改正で5日間の有休取得が使用者にとって義務付けられたことは、従来とは異なる点であると理解してもらうことも必要です。

今までは、労働者が有休を申請した場合であっても、使用者には時季変更権があるので、会社の仕事が暇な時や会社の都合の良い時に有休を取るようにすすめ、労働者の有休希望日ではなく、別の日を指定して拒否することがままありました。
しかし、この度、労働者が有休を申請した場合、「使用者は時季変更権を行使して時季を変更するにあたっては「事業の正常な運営を妨げるという個別的、具体的、客観的な要件が存在しなければ拒否できない」と変わりました。

しかし、有休を労働者の申請どおりに認めていたのでは”会社がつぶれてしまう”とか、会社の都合を優先して必ずしも申請されたとおりに有休を与える必要がないと考えている頭のきりかえのできない使用者、人事担当者あるいは労働者のなかにも存在しています。

本改正の主旨は「使用者に対して、出来る限り労働者が指定した時季に休暇を取得できるように、日常から有休の申請があれば状況に応じて配慮できる対策を立てておく必要がある」ことを要請していると解すべきです。
たとえ、当日請求があっても直ちに拒否するのではなく事業ごとに時季変更権行使の条件を充足しているか否か判断する必要が生じるので、急な欠員があっても交代要員(技能労働者や資格労働者の欠員の場合などでは、まだ十分働くことのできる在宅退職労働者などに、急に欠損が生じた場合に支援をしてもらえる契約等を結んでおく) をおいておく配慮が必要です。
これにより労働者に、個人的あるいは家庭的理由が生じても安心して休暇が取れるようになり、今まで以上に労働者がワーク・エンゲージメント(仕事に誇り、やりがい、熱意、活力をもつこと)をもって労働を継続することが可能になると思います。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

 「働き方改革」の目指すものの一つに、働く者の置かれた個々の事情に応じ「多様な働き方」を選択できる社会(労働環境)を実現することにより、成長(経済発展)と分配(労働対価)の好循環を構築し、働く人一人ひとりで良い将来の展望をもてるようにするとされています。

しかし、「多様な働き方」を企業で採用する場合に、目指す目的とは異なった対応があることに注視しておく必要があります。
 従来の労働者は、家庭は休息の場として、会社で労働することに専念することが当たり前のように考えて労働を提供してきましたが、家庭内で仕事をしていた者、いわゆる家事をしていた者が家庭外で労働を提供する労働者となり、会社が家事、育児、介護などの私的(?)な事情を考慮して受け入れる体制を構築することを促進することとなりました。
このことは、労働者の個々の事情に配慮して労働環境をつくることになりますので、短時間の勤務や会社(職場)に通勤しなくても在宅で業務を遂行できる体制を整えることになります。
短時間労働を提供する、あるいは採用することは、いわゆる非正規雇用者として勤務する者が多くなることになります。

日本の今までの採用条件は、企業が採用した従業員は定年まで雇用する(定年制)という終身雇用制度であると一般的に信じられていました。この制度はいわゆる正規雇用といい雇用期間の定めのない採用であり、労働時間も8時間のフルタイム制であり、従事する会社に直接雇用されるなどの3条件を満たしていました。
この伝統的雇用体制が崩れてゆき、多様な働き方を導入することにより、前述の条件を満たさない雇用期間(15年)が定められた有期雇用者、時間で区切られて働くパートタイム労働者、採用している会社(派遣元)でなく、その会社から他の会社(派遣先)に紹介されて働く派遣労働者など、一般的にいう非正規労働者が増加しています。

最近では、非正規労働者が全雇用者の少なくとも3分の1以上を占めるようになり、また女性雇用者は、半数以上が非正規雇用者となっている地域もあります。
このことは、企業側が求めている職種、技能、賃金、就業条件などと求職者側の個人の事情と一致しない場合が多く、たとえ採用されても短期間で離職してしまう雇用のミスマッチがおこっています。これは、労働移動が盛んになり入職率も離職率も増加しているように雇用統計に表れています。
その上、会社側も労働賃金などを低く抑えるため、正規よりも非正規雇用者を多く採用するようになり、賃金が低く抑えられる要因ともなっています。
このことにより、「働き方改革」で同一労働同一賃金の考え方が提案されていますが、主旨は非正規の賃金を上げることにあったのですが、非正規雇用の方の低賃金に正規労働者の賃金を合わせるなど影響を及ぼしています。

また、年功賃金制度にも影響を与えるなど、今までの労働条件に変化と課題を生じさせていますので、働き方改革の主旨が正しく運用されるように社会全体で努力していく必要があります。

 

 


投稿日時:(542ヒット)

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

平成306月に労働基準法や労働安全衛生法などの労働関連法の改正と併せて、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(「働き方改革関連法」と略す)が成立し、平成307月に公布されました。

「働き方改革関連法」は、働く人が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を自分で選択できる環境を社会や企業内に構築することを目指しています。
このことは産業保健の立場からも望ましいことと考えます。しかし、これを達成するためには、日本の企業の採用体制である終身雇用体制をどのようにするのか、などの阻害要因も改変する必要があります。現代では、新自由主義の考え方やグローバル化により、日本人が外国で採用されたり、日本国内で外資系企業に就業している場合もあり、有期雇用契約など海外の労働文化が取り入れられるようになりました。

労働を実績或いは結果のみで評価する成果主義が、日常的に企業の人事評価、賃金評価に採用されるようになりました。これは、自分の評価を良くしようと努める日本的文化、身を粉にして(粉骨砕身)会社のために働く親方日の丸の美徳精神に反し、日本的労働者が実績評価の労働環境の中で、「時間外労働の上限規制」や「年次有給休暇の確実な取得」等を自らを律して受け入れてくれるか疑問に思います。

一方、我々は貨幣経済の文化のなかで生活しています。貨幣を使って食物を得たり、生活を実践していますので、貨幣を得るために働かなければならないと考えています。しかし、ただお金を得るために仕方なしに仕事をする「いわゆる食うために働く」という労働者が多く存在するようになっているのではないかと心配しています。

働き方改革の推進のためには、人生改革なり労働者個人の生きがいの確立がなければ、改革の意義が見えてこないし、必要性が十分に理解できないと思います。

産業保健の立場からは、この改革により、まず労働者の健康維持確保が容易なることを期待しています。そのうえで、労使とも自然観、人生観、死生観などを持ち、改革の意義がそれぞれの労働者の人生に適合して達成されることを期待します。