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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

産業医というと一般には、馴染みのない言葉に聞こえると思いますが、内科医、外科医、放射線科医、小児科医というように、分野を示す医師の呼び名は千差万別です。
産業保健(Occupational health)は同義語として産業医学(Occupational medicine)、産業衛生(industrial hygiene)と言われています。
職業と健康のかかわりについては、ギリシャ時代から当時の医師による記載があり、古くから働くことによって健康を害することに気づいていました。15世紀 になると通貨が普及し、経済流通のために金貨の需要が生まれ、そのため鉱山業が発展し、鉱夫の病気に関する医学・医療の関心が高まり、産業医学の父と言われるベルナルディーノ・ラマッツィーニ(16331714)が「働く人の病」を本にして出版し産業医学が始まったと言われています。

日本では、1905(明治39)に鉱業法が制定され、鉱山医が活動するようになり、社会的に認知され、医療業務の内容として産業医学が実質的に対策として実践されるようになり、医療はもとより公衆衛生活動の重要な分野としてとりあげられ、医師のみでなく、補助的な健康関連専門家および医療従事者も活動をするようになりました。
その目的は職業病や労働災害および、それから引き続き発生する機能障害を予防し、発生した障害や疾病の治療を行い、その上で健康を増進することを行うようになりました。

また、有機溶剤、特定化学物質(※H2S.CL2.NH3. 臭化メチル)、重金属(鉛、カドミウム、水銀)、電離放射線、振動、騒音などの暴露や異常な環境(高気圧、酸素欠乏)におかれた労働者の健康状態の把握を長期間観察することが可能なので、いわゆる職業による健康障害を研究することが可能であり、かなりの研究が早くから行われ、そのおかげで、職場環境の改善などの対策がとられ、いわゆる職業病の発生が減少してきています。

それに代わり労働人口の減少や産業の活性化のために、健全な労働者確保のため、生活習慣病(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)などの必ずしも職業関連のみでは発生しない疾病の予防対策が取り入れられてきました。また、メンタルヘルス対策などのように労働環境が複雑になり、発生する精神関連疾病への対策もとられるようになっています。

更に、労働者の高齢化もあり疾病をかかえての労働も日常的となり、就業しながら疾病の治療もサポートする体制として具体的に「治療と職業生活の両立支援業」が活動するようになりました。

産業保健総合支援センターや医療機関に新たに両立支援促進員を配置し、当面はがん治療中の労働者を中心に就労環境の改善措置について事業場には理解を求めるとともに配慮に取り組んでいただけることを期待するようになりました。

産業保健の事業は時代の流れの速さや医療水準の向上、社会経済環境の変化に合わせて、最近めまぐるしく変化するので、しっかり体制を整えて対応していく必要があります。

(※H2S.CL2.NH3. 臭化メチル)の表示についてのお願い。

上記()内の数字は下付き文字(小さい文字での表示が正しい)としておりますが、インターネットをご覧いただく際に、
各自皆様の閲覧ソフトによっては、IE(インターネットエクスプローラー)は正しく表示されますが、Google(グーグル)、Firefox(ファィヤーフォックス)等のソフトによっては、正しく表示されない場合もございますので、ご承知おき下さいますようお願いします。

※特定化学物質の一部
S:硫化水素
CL:塩素
NH:アンモニア
CHBr:臭化メチル

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

「こころの健康」ということが、メンタルヘルスやストレスチェック制度の説明のなかでよく使われます。
「健康」というのは、健康であるという定義よりも健康を害していない(医学的検査結果で異常値を示さない、又は基準値や標準値から逸脱しない)ということで、健診などで判定されて説明を受けた方が科学的に理解されやすいと思います。

また「こころ」というのは「からだ」に対することばであり、人間の精神作用の元となるもので、知識、感情、意思の総体のようなものであると考えられます。

そうすると「こころの健康」とは実態が見えないものであり、基準値や標準値(最近では正常値という言葉は使われなくなっています)で判定し、健診結果のように科学的な数値として診断できることではありません。笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったり、悔しがったり、妬んだり、人間の本来持っている、いわゆる普通の精神活動が歪んだ状態で一定期間続かないようにすることが「こころの健康」を保持することになります。

「こころの健康」を、保持・増進あるいは歪まないように予防するためには、身体的不調(高血圧、糖尿病、神経痛など内因的制限)によって「こころの健康」が保持できない場合は病気の治療等行い改善をすることが重要になります。

外因的要因(物理的、化学的、生物学的ストレッサー)によってストレスが発生し、「こころの健康」が維持できない場合には、騒音、寒冷、高熱などの環境改善、シックハウス病、有害ガス、有機溶剤などのストレッサーの除去、病原微生物などの雑菌や害虫の駆除、花粉に対する防具などの対応を実践することが必要です。

家族の不幸(喪失感)、夫婦の不仲、子供の問題、家計等の経済問題などの社会的ストレッサーから発生するストレスは、日常生活を良好に保てるような個人レベルの相談を可能にする対策をとっておく必要があります。

職場などの人間関係のストレッサーによるストレスには就業体制の改善が必要であり、人事考課等による就業成績の評価に対するストレスは避けがたいこともあります。また、最近の新しい傾向として、日本の資本主義体制での評価はあまり厳しくない雰囲気で発展してきましたが、日本の雇用体制に欧米流の効率主義や実力主義が取り入れられるようになり、それに伴い永久就職雇用体制から非常勤採用(期限付き)、パート採用などの短期間採用が多くなっています。このことは、契約期間が切れると失職するのではないかという不安が、常に労働者にのしかかっていることになります。

自分一人の考えでは、心が閉鎖的になり抜け出る事が困難な場合もあります。 第三者(上司、家族、そして産業医など)に相談することにより、ストレッサーがストレスとして固定しないように対応する努力が必要です。

「こころの健康」を保持・増進することは、精神疾患の第一次予防の前の事業場において、楽しく幸せに安全に働ける職場環境をつくることを目指しています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

世はグローバル時代になった。経済分野においてもイギリスで国民投票によりEUからの離脱票が多数を占めた事で、世界の株式市場が反応し乱高下している。大企業の ヨーロッパ支店がイギリス国内にあることもあって日本国内の市場も株の全面安を起こすなど直接的に影響を受けています。
このように海外の国内情勢がもろに遠く離れた日本国内に影響を与えるようになり、もはや日本一国の内部情勢で日本の存在を考えるだけでは、世界の一員としての存在を明確にすることや、繁栄を計ることは出来なくなっています。

日本の国際交流は当初は国際化ということで言われ、海外の人、特に発展途上国の人を国に受け入れ、主には留学生や研修生ですが日本の得意とする技術などを習得してもらい、留学生や研修生が帰国後に自国で産業を興したり、活用して発展することを期していました。また、それと同時に保健分野では、医師や保健師などの専門職が感染症の流行地域や医療の行き届かない地域で医療行為をしたり、保健指導などを行い、衛生状態の改善をするなど、限りなくへいきん平和的で人道的な国際貢献を実践してきました。

最近ではグローバル化として日本人が外国に出かけて現地で生活し、そこの文化を共有しなから生活し活躍するという、現地で姿の見える貢献を保健分野のみでなく文化、教育などの分野でするようになりました。

日本国内に来日された外国人も日本国内で居住する人も多くなったので、国籍の異なる人と一緒に生活する為、各国の文化や宗教を受け入れる「多文化共生」という考えを実践することが日常的になりつつある。
特に文化の中でも宗教関係の価値判断と行動基準を理解し合う事の難しいことは以前から言われています。

その中で技術協力の為、日本人の専門家が途上国に派遣されて、テロ等の事件に遭遇して死亡するなどの不幸な事象が起こっています。
世界の中でも特有な文化や宗教観を持っている日本がグローバル化として世界貢献するためには、奉仕精神だけの単純な考えではとても対応困難です。海外に対して今まで以上の十分な理解とテロなどのリスクに遭遇しない体制がとられないと日本のグローバル化は発展しないと思われます。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

業務上疾病発生状況を見ると、「負傷に起因する疾病」が最も多く、その中で腰痛(災害性腰痛)が最も多い。その発生業種も多岐にわたり、社会福祉施 設(介護 職)、運輸交通業(自動車運転)、小売業(重荷運搬)、建設業(土木作業)等で多発しており、健康診断時でも自覚症状として訴えが多く、重要な相談内容の 一つです。

これを予防するために重量物取扱い作業の自動化、省力化や不自然な作業姿勢の禁止、そして作業後の整備・腰痛体操の実践がすすめられています。

これまでは、重激業務などは避けられない労働として「過重労働」の中でも重点的に労働衛生対策がとられていました(過去のことではなく今日でも重点的な課題であることには変わりはありません)。

しかし、最近では過重労働による健康障害防止対策の内容を見ると、時間外の長時間労働者(1週に40時間を超えて行う労働が、1ヶ月当たり100時間を超 え、疲労の蓄積が認められる者)について、疲労やストレスが重なると過労死につながるような脳・心臓疾患を発症する事に関連しているという医学的知見もあり、事業者に対して改善をはかるように対策がすすめられています。

過重労働すなわち重い荷物の人手による運搬、深夜労働、長距離運転、悪い 作業姿勢によって発症する健康障害も重要ですが、IT産業や新興大企業における「労働者の替りはいくらでもいる」として大量採用された若い労働者の作業態様に注目されています。若い労働者を大企業は支店の店長や役職に早くから登用し、役職ばかりで権限のない小規模店舗の店長への残業代不払いが問題となった、労働時間の長時間規制から除外して働かせる、いわゆる「名ばかり管理職」であったり、テクノストレスをおこさせたり、パワハラが行われるなど、いわゆるブラック企業が表面化して、心身症の予防、メンタヘルス対策が 過重労働対策の重要課題となっています。

産業保健の研修会のテーマに、「過重労働としての長時間労働者やストレスチェック制度の調査結果による高ストレス者の面接指導」を同時に取り上げているのは、両方とも面接指導の手順が類似していることにもあります。

過重労働などの様にそれぞれの労働衛生対策も年代を経て法律が変わったり、社会情勢の変化により内容とあり方が変わっていくことを認識しておくことが重要だと感じています。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

我々人間にとって「心の健康」は大切なものであるとともに、身体の健康と同じように論じられ、ややもすると身体の健康よりも重要なものであるとも言われます。人類は万物の霊長であり、精神活動をするから人間であるとも言われます。
健康について、WHOの定義では「単に疾病や虚弱でないというだけでなく、肉体的・精神的ならびに社会的に良好な状態である」とされています。

精神的健康すなわち心の健康について、よく話されますが実際にどのようなものであるか分りにくいことです。

医学分野のなかに「公衆衛生学」というカテゴリーがあり、そのなかに「精神保健」という分野があります。このなかで産業保健に関連した内容をみると、精神の病的状態のために職業生活に支障を生じている状態を改善したり、休職した場合は職場復帰を支援をすることが行われています(障害者の公的自立支援が主な対策でした)。

今日では、労働現場のいわゆる健常者のメンタル不調を未然に防止することがメンタルヘルス対策として行われています。「労働安全衛生法」の制定により、労働者の健康を守る為に、「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」(労働衛生の3管理)が法により命令として、事業主が行うべき施策として定められました。その中で、「健康管理」については健康診断や健康教育が条文として謳われています。具体的施策には通称「トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)」として身体面だけでなく、精神的な側面についても十分配慮して推進されています。トータルと言われるなかには、ターゲットとして生活習慣病予防と心理社会的ストレス要因によるメンタル不調の発生防止を実践することが含まれています。

メンタル不調とは行動障害、心身症、神経病、精神病などこころの不健康状態を総称する言葉です。特に行動障害には出社拒否、無断欠勤、職場内での人間関係や仕事上のトラブルの多発、過食、多量飲酒、デスク喫煙、性行動の偏り(のぞき、下着どろぼう、痴漢など)等があるとされています。

メンタルヘルス対策は健康診断の実施と同時に行われなくてはならないことであり、ストレスチェック制度が施行されたのは、この流れの一環であり、繰り返しになりますが、労働者のメンタル不調を未然に防止(一次予防)することを目指しています。就業についている労働者の強い不安、悩み、ストレスなどの心理的負担の程度を把握し、労働者自身がストレスに気づくことが重要とされているため、労働者自身で判断が困難な場合は、専門的に相談にのってくれる産業医の役割は重要であり、事業主に対しても安全配慮義務を遵守できるように医師として支援いたします。その職務を遂行するため、月1回の職場巡視をすること等により、労働者の職場の現状を把握して、医師の立場から職場へ適切な指導・助言をしたり、高ストレス者の面接指導も行うのがこの制度の要であります。50人以上の労働者を雇用している事業場においては産業医が選任されていますので、機会をつくって産業医に相談して下さい。

労働者の心の健康を保持、増進するために、事業主や担当者等の理解が深まり労使一体となってメンタル不調を防止するため、実効ある事業として実践されることを願っています。