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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

    医学はすばらしく進歩しています。
これを労働者の健康管理に可能なかぎり採用することが必要になっています。

  労働者の健康を保持・増進するための健康管理の手法の重要なものとして、健康診断(以下健診と略す)を実施します。
これは、第二次予防として、健康であることを確かめる(検査に異常値がないことを確認する)こと、そして疾病を早期に発見し、早期に治療や生活習慣の改善を開始することにより、病気の進行を防ぐことや病気の治癒や生活改善に努め、労働者の病気休業などを未然に防止し就業を持続できるようにすることを目指しています。

  そこで病気の早期発見のために健診で実施される検診項目は、検尿検査、血液検査(貧血、肝機能、腎機能など)などの生化学検査項目や生理学的検査項目として、血圧測定、体重・体脂肪検査、視力検査、聴力検査、心電図検査、超音波検査などが行われ、さらに胸部レントゲン検査、バリウムによる胃透視検査などのX線検査が行われています。女性労働者には子宮がん検診、乳がん検診も行われています。

  これに加えて、日本消化器がん検診学会などの推奨もあり、鳥取県では人間ドックや市町村健診で胃内視鏡検査(以下胃カメラと略す)が行われ、事業所健診でも対策型検診として採用されています。
一般的にお馴染みになっているバリウム陰影を判定して病変を検査する胃透視よりも臨床診断的には、胃カメラの方が、直接、食道内、胃腔内さらに十二指腸内を見ることができるので診断精度が向上し、より早期発見の確度が上がりますし、必要があれば検診のときに組織を採取して、特にがん細胞の有無を確認することができます。

    しかし、今までは費用の問題、一回の検診件数に限りがあるなどのデメリットがあり一般事業場で車検診では、がん対策型検診として採用されていません。
事業所健診を病院や検診機関で行う施設検診が普及すれば胃カメラ検診が促進されるようになると思います。

今後はさらに全身のコンピューター断層撮影法(CT検査)などが労働者の健診に採用されつつありますので、より精度が高く幅の広い第二次予防対策が促進されると思います。
今までのように簡便で必要最低限の健診項目による健診から医学の進歩とともに健診項目と内容が変化していくことは避けられないと思います。
   今後の事業所健診のあり方をどのように考え、労働者の健康管理を充実していくのか事業所や検診機関が検討しなくてはならなくなっていると考えます。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之


健康上の各種の現象を主に疫学的に把握し疾病の予防や健康の保持増進を科学的根拠に基づいて実践する医学の学問分野に公衆衛生学という学問があります。この分野には産業保健、母子保健、学校保健、成人保健、老人保健、環境保健など20以上の保健分野や保健・医療・福祉そして介護制度などを研究実践する分野もあります。
鳥取産業保健総合支援センターの業務の一つである産業保健分野は職域で活動する労働者の健康管理や疾病の予防を実践する分野であります。

また、産業保健に関する職業病などの病気の予防には、健康増進に始まり、疾病対策や職場復帰まで広範囲な活動が含まれています。
この概念は予防医学としても理解されています。予防医学は第一次予防(健康増進・疾病予防活動)、第二次予防(健康異常の早期発見・そして早期の適切な治療により疾病の進行を抑える)、第三次予防(疾病の治療・そして治療後にリハビリテーション、再発防止、職場復帰)の三段階に分けて様々の対策が実践されています。

今年の12月1日から開始されるストレスチェック制度の目的は労働者の精神状態が不調になったり、気分が障害される(その結果 うつ状態におちいる)ことなどを未然に防止することを目指し、職場の作業環境や人間関係を良好に保つ体制をつくることや、不調な状態を早期に発見すると同時に早期に対策するという第一次予防と第二次予防を含めた対策を行うことを目指しています。そして高ストレス者を発見し、専門家による面接指導を行い うつ状態が増悪しないように対策すること、うつ病などの早期のものであれば軽いうちに治療やリハビリテーションを行い健全な状態に回復をはかることと同時に職場環境などの改善により職場復帰がしやすい体制を構築し、健全な労働力を確保するという第三次予防までの一連の対策を考えた制度であります。

ストレスチェック制度は実際に実施されてみないと、どんな問題や解決しなくてはならない課題があるのか不明な点があります。
まずはこの制度がスムーズに開始され、事業場の関連される人々に理解が進むことを願っています。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之


労働衛生管理の一つに健康管理があり、健康診断(健診と略す)およびその結果に基づいて事後措置がとられることになっています。

そのなかで、一般健康診断では雇入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断などの各種健康診断を行います。それぞれの健診において健康診断項目が異なりますが基本的には問診・検尿(糖・蛋白・潜血・ウロビリノーゲン)、血液検査(貧血検査、肝機能検査、血糖検査など)、胸部レントゲン検査、そして診察が行われています。
現在では、その上に生活習慣病の予防が重要な課題となり、心電図検査、胃部バリウム検査、胃内視鏡検査(胃カメラ検査)、子宮がん組織検査、乳がん検査(触診とマンモグラフィー)、超音波検査、CT検査などが日常的に行われています。

医学的検査が増加するとともに、大型かつ精密な医療機器が必要となり健診バスで労働者の働く場所に接近して受診者の利便性も考慮して健診していましたが、困難な場合もあります。そのため設備の整った健診センターや病院などでのドッグ健診も行われるようになりました。

いわゆる職業病については、作業環境管理の改善により、有害物質や有害作業等の要因に労働者がばく露することが少なくなったので、職業関連疾病が減少しています。一方最近では作業管理として労働者の人間関係(メンタルヘルス)、過重労働(長時間労働)、深夜作業などに起因する疾病対策が重要になっています。これらの疾病の発生は単に身体的素因によることよりも、作業に従事することによって影響を受けて発病することがあることを十分に考えてのことです。

これらを踏まえて、労働者50人以上の事業場では産業医が選任されており、産業医は職場の状況をよく理解し、とくに健診結果で異常な所見の発見された者には適切に保健指導をされると思います。

また、労働者50人未満の事業場にあっては、相談したり、適切に指導できる産業医を見つけられない場合には、おおむね労働基準監督署管轄区域(鳥取県では東・中・西部の医師会館内)ごとに設置されている地域の窓口(地域産業保健センター)に、それぞれの課題に対応できる専門スタッフがいますので積極的に活用・相談して下さい。

本年12月にはストレスチェックも開始されます。労働者の健康管理には、事業場の枠を超えて対応する必要がありますので、県単位では産業保健総合支援センター(鳥取市)が設置されていますから、何でも相談され今日の多様な健康管理が適切に実施されることを期待しています。

        


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

”病気は予防することが大切である”と言うことは、万民の認めるところです。しかし、日常的に予防対策を積極的に実践することや、行政予算で建築物を建設するように予防対策に多額の経費をかけることには、すんなりと取り入れられることが難しい傾向にあります。健康の維持については、個人的な努力や価値観によるところが多く、公共の建物を建てることの方が公共性があるため、優先されるのであろうと考えています。

疾病の第一次予防(健康増進、予防接種)は、人生を健全に送るためや、労働者が就労活動を継続するために当然なことであり医学・医療の究極の目標であります。

平成27年12月から実施されるストレスチェックは、労働者の精神保健活動の第一次予防に着目した対策です。これは日常の生活や就業活動においてストレッサー(身体が受ける刺激)に対してストレス反応が起こり、体調が不調をおこしたりするので、これに早く気づき上手に対処して、労働生活が乱れないようにすることを目指しています。

病気の原因や関連要因が分っているものは対処しやすいのですが、生活習慣病(心臓病、高血圧、糖尿病 がんなど)は、老化現象に関係し、長い間の生活習慣の不良にも関連しているので、だれでもが経験することであり、対策が難しいことです。

メンタルヘルスもストレッサーに反応するわけですが、その反応の大きさは個人によって異なるので対策も多様でなければなりません。
病気の原因や要因を明らかにするために疫学という学問がありますが、病気のある人とない人について原因や要因を比較することによって、それらの関連の大きさを明らかにする研究や調査を行います。人間の生活は多様であり、性、年齢、人種によって、あるいは個体差によって同じ要因に対する反応も異なり、全ての人に関連する要因を科学的に解明することが困難な場合が多いので、その活用方法も十分に検討を要することがあります。

それでは、病気の予防のためには、何をどうすれば良いのか、ということになります。一般的には生活習慣が乱れることなく規則的な生活リズムを維持し、快適な行動パターンを実践することを基本に、食生活では好き嫌いなく32品目以上の食品を摂取し、バランス良く栄養素を摂取し、適度な運動を毎日実践し、エネルギーのバランスを良好に保つことが重要になります。

特に、老化予防には筋肉や関節等をよく動かし可動域が少なくならないように維持し、特にアミノ酸、ミネラル、ビタミンなどの摂取に注意をすることが大切です。

仕事における精神活動においても、ストレッサーに対して気づかないままに身体の不調をきたし、精神的にイライラ、不安、怒りなどがよくおこり、身体的には動悸、息切れ、吐き気、下痢、腹痛、そして肩こり、頭痛がおこります。早目にストレスと関連があることに気づき、一人で悩まないで、 医師などに面接・指導を受けることにより対応することが必要です。

産業保健の重要な目標の一つは、第一次予防を日常生活や職場生活で実践し、健全で楽しい労働生活を過ごすことを可能にすることであります。

        


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

産業保健(労働衛生)は、あらゆる職業に従事する人々の業務に起因する負傷・疾病・障害・死亡などの健康障害の発生を未然に防止することと、労働者の健康増進や快適な作業環境の構築することを目的としている。このことにより企業の生産性の向上がはかられ、業務の人間への適合と人間の業務への適応がはかられることが期待されている。

また、労働者の精神的・肉体的・社会的健康の増進からはじまり、作業環境管理、作業管理、健康管理のいわゆる労働衛生の三管理を総合的に実践することにより、今日的課題である過重労働の防止、メンタルヘルス対策など、心の安全・安心・人間関係の良好な体制づくりにまで対応するようになっている。

医学分野の労働衛生では、主にいわゆる職業病の原因と病態の解明を行うことによって疾病の予防体制を確立することを行っていましたが、いわゆる職業病などに関係した特殊健診よりも、生活習慣病に関する健康診断が多く実施されている。

また、山陰労災病院では、病院の開設当初から長い間、女性の労働を軽視していたこともあって、診療科に産婦人科を設置していなかったが、2013年に産婦人科が開設され、それに伴い小児科も開設され、総合病院として機能するようになった。

産業保健の範囲も、メンタルヘルス(心の健康)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)の予防にまで拡大されているので、産業保健従事者は今までの活動の範囲を越えて活動したり対応する必要がある。

産業医や産業看護職そして衛生管理者などのあり方も労働と疾病という関係のみではなく、職業に従事する人間として労働者に対応し、生活全体(職場、家庭、社会生活)を考慮に入れた健康管理と指導が大切となっている。
その上、人口の高齢化に伴い労働者年齢が上昇したことにより、年齢に応じた労働者の身体機能を十分に考慮した作業の工夫と適性配置を実践しなくてはならなくなった。これらのことなど、急速に変化する労働者の状況に対応した支援を可能にする体制を実現しなくてはなりません。