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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

最近、健康に関する書物や健康食品などの宣伝に「健康寿命をのばす」という意味の言葉が使用されています。
「健康」の定義については、世界保健機関(WHO)の定義(健康とは身体的にも精神的にも社会的にも完全に良好な状態であり、単に病気がないとか、病弱でないということではない。)が一般的に使用されていますが、個人個人にその概念をあてはめて考えると、現実的には理解と実践する場合に種々に異なった対応があります。
また「寿命」は命がある間の長さのことでありますが、これを組み合わせた「健康寿命」とはどのような状態であるのか、わかりにくい場合があります。「健康寿命」という考え方は予防医学分野で、病気を予防する事とはどのような生き方の状態を想定するのかを検討する中で考え出された概念です。

一生を生きていく ためには可能な限り身体的に自立して、自分で自由に摂食でき、そして排泄などが可能な状態を維持する事が、望ましい条件の一つであると考えたわけです。
「健康寿命」は主に身体的機能低下(病気・老化など)を視野に入れた考えでありますが、精神的機能低下(認知症など)も入れて考えないと高齢化社会では適切ではありませんので、「健康寿命」の概念は複雑になってきました。

疾病予防対策の実際では、病気になるきっかけを未然に回避し、不健康な生活から個人が脱却するようにする事を目指しています。原因の分っていることはその原因に暴露しない対策や環境をつくること。例えば、公害などの原因となる工場からの排煙による大気汚染については公害対策で改善したり、有害物質が混入した食品の摂取を避けるために食品衛生法により厳重に食品業者を監督・指導が行われています。

個人についても肥満が万病の元と考えられるので、食生活の改善や運動の実践を提案し、より適切な運動の指導や対策等を行っています。これらによって自立して一生を過ごすことを疾病予防の目標とする概念に 「健康寿命をのばす」ことで、人口の高齢化などに対応しようと考えたわけです。

「健康寿命」の考え方には、一人一人の主体的人生観が入っていますし、単に生きながらえることを意味しているものでもありません。

社会対策として「健康寿命」の考え方が適切に理解され、すばらしい人生が実現できることを願っています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

いよいよストレスチェック制度がスタートしました。各企業や事業場では開始にむけて準備されていると思います。また、産業保健総合支援センターにも不明な点や実施方法などについて問い合わせが増加しています。

さて、チェックリストの調査項目の医学的意味や背景についてはあまり解説されていません。労働者は労働をすることによってストレスを感じる (精神的負担が自分の中で処理できなくて、身体的あるいは精神的に種々の影響や症状が表れてくる場合)ことがあります。
もちろんストレスによって、それがきっかけで前向きに反応して活力の源となったり、活発な活動の源になる場合がありますが、ストレスチェック制度の調査項目は前者のような状況をチェックし、集計することになっています。すなわち仕事や職業生活によって精神的不安や悩み等を感じ、これがストレスとして感じている労働者を対象とし職場環境を改善することを目指しています。

ストレス要因は、いろいろありますが、その中で精神的プレッシャーや労働負荷などに関連したものがあります。特に、精神的プレッシャー (労使関係や同僚とのコミュニケーションなど) は明確に判断することは難しいですが、肉体労働 (重い荷物を持ったり困難な仕事をする) や長時間労働に関係することはストレッサーが計量しやすく、程度分類 (症度) が可能であり疫学的にも解析が容易であり科学的に説明しやすく客観的にも分りやすいのです。これに関連したことは、平成26年11月1日に施行された過労死等防止対策推進法の内容が分りやすいと思います。
労働をすることによって感じる死に至るような、ストレス(個人差がある)を明らかにして法律によって過労死を防止することを目指しています。また、長時間労働 (測定可能) が脳や心臓疾患の発症に関係することを疫学的に証明することは可能であります。

心理的負担 (強さや程度分けが困難) による精神障害 (精神疾患) により、正常な認識や行為選択能力が著しく阻害され自殺に至っことを証明することはなかなか困難ですが、過重労働や長時間労働であれば、たとえ死亡まで至ることがなくても脳血管疾患 (脳卒中) や心臓疾患 (心筋梗塞) に至る因果関係をある程度明らかにすることが疫学的 (寄与度、確率、蓋然性) に可能であると認め、労災認定が行われるようになりました。

ストレスチェック制度はこの法律の対象となる状況にならないように、仕事をすることが精神的負荷であっても早目に自分自身が認知したり、ストレスの高い労働者については関係者が精神的に援助することを目的としています。
労働者がチェック項目に記入する場合にも、これらのことを理解し正確に記入してもらえるように少しずつ対応していくことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

明けましてお目出度うございます。
今年は昨年末(平成27年12月)に開始されたストレスチェック制度を実質的に実施することになります。
ストレスチェック制度の目的は労働者がメンタル不調になることを未然に防止することにあります。誰でも日常の生活する場面でも或いは就労中でも種々のストレスがかかります。それに対応するため、労働者が自分にかかっているストレスの程度などの状態を知ることにより、ストレスがたまっていたり、ストレスの程度が高い場合には医師などの面接指導を受けることによって軽減措置をはかる対策をとるようにすることです。
実施にあたっては、紙媒体である質問票に労働者自身が自記式によって記入することで、労働者の心理的負担の程度を把握する検査を行います。それをもとに労働者自身にストレスの気付きを促すとともに職場改善につなげるなど働きやすい職場をつくることや、メンタル不調を防ぐ第一次予防を目指したものです。

さて、予防医学において、第一次予防(健康増進、予防接種による免疫機能強化など)と言いますが、最近までの第一次予防は生活習慣病(脳卒中、がん、糖尿病など)の予防の実践に健康診断をすることや病気の治療過程で投薬の前に食生活改善や運動をすすめることなどが多かったと思います。このために身体の健康状態を知るため血圧を測定したり、血液の検査や胃カメラ、胸部X線撮影などのスクリーニング検査が行われ、一般的にこのシステムが普及し受け入れられています。これにより早期に異常を発見し、治療をしたり、肥満予防のために運動をすすめることなどで早期発見・早期治療という第二予防につなげて健康維持を実践したり、延命効果をはかることを目指しました。

一方この予防活動は、よい効果ばかりではなく、精密検査を受けて早期の所見などを判定するので、見落とすことがあったり、偽陽性として不安な時期を過ごす精神的負担を発生させることがあります。
もちろん病気を未然に防ぎ、延命をはかる効果があることは言うまでもありませんが、不利なこともありますので、これを少なくするため医療のエビデンスに基づいた医療判断や医療行為が適切に行われるよう努めることが肝要です。

さて、今まで精神保健活動を第一予防として取り組んだ例としてはメンタルヘルス対策があります。
この度のストレスチェック制度は、人間のメンタル不調という人の気分障害などの精神活動に関連した医療のなかでも高度な医療知識と判断が要求される分野であり、日常的に誰もが陥るうつ状態などのメンタル不調を発見することや、うつ病などを鑑別診断するなど難しいことを実施することになります。

そして、高ストレス者になった者に対して、原則的には産業医によって面接指導が行われ、産業医にとっても高度な技術と知識が必要となり負担がかかります。これを容易にかつ均一的にするためにチェックリスト等を活用し工夫して行うことでスムーズに実施されることを期待します。

ストレスチェック制度では、精神障害者を発見するのではなく、快適な労働環境において労働できる職場形成を目指していますので関係の皆様の適切な理解のもとで実施されることを願っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

昔からの言い伝えに「病(やまい)は気から」という名言があります。病気の発症にはいろいろなことがありますが、病気の原因には精神的なこともあり、特に異常(その人が耐えられないような)ストレスによって身体的異常が出てくることを言っています。
ストレスがたまった状態が続くと精神科関連の疾患に気分障害としてあらわれて「うつ病」とか「そううつ病」という病気になることがあります。
これは気分がうつ状態(抑うつ状態と同義語で、精神活動が抑えられて、のびのび出来ない状態)となり、気分が落ち込むことや気が滅入ることや、やる気が出ないなどが表現型として自覚したり或いは他人にも分かるようになります。

12月から実施される「スレトスチェック制度」は労働者が質問票に自分で記入し、自分のストレスの状態を知り、ストレスなどによる気分障害を起こさないように未然に対処することを目指しています。
抑うつ状態は仕事をしながらだけではなくて、家庭においても誰もがそれぞれのストレス要因によっておこります。これを「反応性うつ」と言って抑うつ状態を起こす前に 時間的に比較的近い時期にあった心理的現象に伴い、その影響によって反応として気分が落ち込むことなどがあります。失恋とか大学受験失敗などが典型的な例 です。
これらの事がたびたび重なったり、長い間要因として心にのしかかると精神疾患に移行していく場合があります。ストレス要因がなくなると改善したり短期的(約1~2週間)で回復すれば病的とは言えません。

産業保健分野で職業に起因しておこる疾病に化学的・物理的要因などによる疾病を取り上げてきましたが、メンタルヘルスが対策として重要であると取り入れられるようになり、やっと就業上の重要な課題として考えられるようになったということです。
今回のストレスチェックは、A.仕事のストレス要因(心理的負担に原因する項目)B.心身のストレス要因(心身の自覚症状に関する項目)C.周囲のサポート(職場での他の労働者の支援に関する項目)の3領域により構成されています。
この質問票によって医師などがストレスの程度を評価し、自覚症状の高い者や自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が悪い者を高ストレス者として選び出し医師などの面接指導によりメンタルヘルス不調を未然に防止すること(第一次予防)を目指します。
すでにメンタルヘルス不調の状態にある労働者も含まれている場合は、面接指導を行った医師(産業医等)が専門医への受診を勧奨して早期発見・早期対処(第二次予防)を考えています。これによって本人の就業をスムーズにすることと場合によっては適切な作業管理や労務管理の改善につながります。

産業保健の健康管理は仕事をすることによって発生する障害を予防することが目標ですので、ストレスチェックを正しく理解して労働者の健康管理と快適な作業環境を作られることを願っています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

    医学はすばらしく進歩しています。
これを労働者の健康管理に可能なかぎり採用することが必要になっています。

  労働者の健康を保持・増進するための健康管理の手法の重要なものとして、健康診断(以下健診と略す)を実施します。
これは、第二次予防として、健康であることを確かめる(検査に異常値がないことを確認する)こと、そして疾病を早期に発見し、早期に治療や生活習慣の改善を開始することにより、病気の進行を防ぐことや病気の治癒や生活改善に努め、労働者の病気休業などを未然に防止し就業を持続できるようにすることを目指しています。

  そこで病気の早期発見のために健診で実施される検診項目は、検尿検査、血液検査(貧血、肝機能、腎機能など)などの生化学検査項目や生理学的検査項目として、血圧測定、体重・体脂肪検査、視力検査、聴力検査、心電図検査、超音波検査などが行われ、さらに胸部レントゲン検査、バリウムによる胃透視検査などのX線検査が行われています。女性労働者には子宮がん検診、乳がん検診も行われています。

  これに加えて、日本消化器がん検診学会などの推奨もあり、鳥取県では人間ドックや市町村健診で胃内視鏡検査(以下胃カメラと略す)が行われ、事業所健診でも対策型検診として採用されています。
一般的にお馴染みになっているバリウム陰影を判定して病変を検査する胃透視よりも臨床診断的には、胃カメラの方が、直接、食道内、胃腔内さらに十二指腸内を見ることができるので診断精度が向上し、より早期発見の確度が上がりますし、必要があれば検診のときに組織を採取して、特にがん細胞の有無を確認することができます。

    しかし、今までは費用の問題、一回の検診件数に限りがあるなどのデメリットがあり一般事業場で車検診では、がん対策型検診として採用されていません。
事業所健診を病院や検診機関で行う施設検診が普及すれば胃カメラ検診が促進されるようになると思います。

今後はさらに全身のコンピューター断層撮影法(CT検査)などが労働者の健診に採用されつつありますので、より精度が高く幅の広い第二次予防対策が促進されると思います。
今までのように簡便で必要最低限の健診項目による健診から医学の進歩とともに健診項目と内容が変化していくことは避けられないと思います。
   今後の事業所健診のあり方をどのように考え、労働者の健康管理を充実していくのか事業所や検診機関が検討しなくてはならなくなっていると考えます。