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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之


労働衛生管理の一つに健康管理があり、健康診断(健診と略す)およびその結果に基づいて事後措置がとられることになっています。

そのなかで、一般健康診断では雇入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断などの各種健康診断を行います。それぞれの健診において健康診断項目が異なりますが基本的には問診・検尿(糖・蛋白・潜血・ウロビリノーゲン)、血液検査(貧血検査、肝機能検査、血糖検査など)、胸部レントゲン検査、そして診察が行われています。
現在では、その上に生活習慣病の予防が重要な課題となり、心電図検査、胃部バリウム検査、胃内視鏡検査(胃カメラ検査)、子宮がん組織検査、乳がん検査(触診とマンモグラフィー)、超音波検査、CT検査などが日常的に行われています。

医学的検査が増加するとともに、大型かつ精密な医療機器が必要となり健診バスで労働者の働く場所に接近して受診者の利便性も考慮して健診していましたが、困難な場合もあります。そのため設備の整った健診センターや病院などでのドッグ健診も行われるようになりました。

いわゆる職業病については、作業環境管理の改善により、有害物質や有害作業等の要因に労働者がばく露することが少なくなったので、職業関連疾病が減少しています。一方最近では作業管理として労働者の人間関係(メンタルヘルス)、過重労働(長時間労働)、深夜作業などに起因する疾病対策が重要になっています。これらの疾病の発生は単に身体的素因によることよりも、作業に従事することによって影響を受けて発病することがあることを十分に考えてのことです。

これらを踏まえて、労働者50人以上の事業場では産業医が選任されており、産業医は職場の状況をよく理解し、とくに健診結果で異常な所見の発見された者には適切に保健指導をされると思います。

また、労働者50人未満の事業場にあっては、相談したり、適切に指導できる産業医を見つけられない場合には、おおむね労働基準監督署管轄区域(鳥取県では東・中・西部の医師会館内)ごとに設置されている地域の窓口(地域産業保健センター)に、それぞれの課題に対応できる専門スタッフがいますので積極的に活用・相談して下さい。

本年12月にはストレスチェックも開始されます。労働者の健康管理には、事業場の枠を超えて対応する必要がありますので、県単位では産業保健総合支援センター(鳥取市)が設置されていますから、何でも相談され今日の多様な健康管理が適切に実施されることを期待しています。

        


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

”病気は予防することが大切である”と言うことは、万民の認めるところです。しかし、日常的に予防対策を積極的に実践することや、行政予算で建築物を建設するように予防対策に多額の経費をかけることには、すんなりと取り入れられることが難しい傾向にあります。健康の維持については、個人的な努力や価値観によるところが多く、公共の建物を建てることの方が公共性があるため、優先されるのであろうと考えています。

疾病の第一次予防(健康増進、予防接種)は、人生を健全に送るためや、労働者が就労活動を継続するために当然なことであり医学・医療の究極の目標であります。

平成27年12月から実施されるストレスチェックは、労働者の精神保健活動の第一次予防に着目した対策です。これは日常の生活や就業活動においてストレッサー(身体が受ける刺激)に対してストレス反応が起こり、体調が不調をおこしたりするので、これに早く気づき上手に対処して、労働生活が乱れないようにすることを目指しています。

病気の原因や関連要因が分っているものは対処しやすいのですが、生活習慣病(心臓病、高血圧、糖尿病 がんなど)は、老化現象に関係し、長い間の生活習慣の不良にも関連しているので、だれでもが経験することであり、対策が難しいことです。

メンタルヘルスもストレッサーに反応するわけですが、その反応の大きさは個人によって異なるので対策も多様でなければなりません。
病気の原因や要因を明らかにするために疫学という学問がありますが、病気のある人とない人について原因や要因を比較することによって、それらの関連の大きさを明らかにする研究や調査を行います。人間の生活は多様であり、性、年齢、人種によって、あるいは個体差によって同じ要因に対する反応も異なり、全ての人に関連する要因を科学的に解明することが困難な場合が多いので、その活用方法も十分に検討を要することがあります。

それでは、病気の予防のためには、何をどうすれば良いのか、ということになります。一般的には生活習慣が乱れることなく規則的な生活リズムを維持し、快適な行動パターンを実践することを基本に、食生活では好き嫌いなく32品目以上の食品を摂取し、バランス良く栄養素を摂取し、適度な運動を毎日実践し、エネルギーのバランスを良好に保つことが重要になります。

特に、老化予防には筋肉や関節等をよく動かし可動域が少なくならないように維持し、特にアミノ酸、ミネラル、ビタミンなどの摂取に注意をすることが大切です。

仕事における精神活動においても、ストレッサーに対して気づかないままに身体の不調をきたし、精神的にイライラ、不安、怒りなどがよくおこり、身体的には動悸、息切れ、吐き気、下痢、腹痛、そして肩こり、頭痛がおこります。早目にストレスと関連があることに気づき、一人で悩まないで、 医師などに面接・指導を受けることにより対応することが必要です。

産業保健の重要な目標の一つは、第一次予防を日常生活や職場生活で実践し、健全で楽しい労働生活を過ごすことを可能にすることであります。

        


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

産業保健(労働衛生)は、あらゆる職業に従事する人々の業務に起因する負傷・疾病・障害・死亡などの健康障害の発生を未然に防止することと、労働者の健康増進や快適な作業環境の構築することを目的としている。このことにより企業の生産性の向上がはかられ、業務の人間への適合と人間の業務への適応がはかられることが期待されている。

また、労働者の精神的・肉体的・社会的健康の増進からはじまり、作業環境管理、作業管理、健康管理のいわゆる労働衛生の三管理を総合的に実践することにより、今日的課題である過重労働の防止、メンタルヘルス対策など、心の安全・安心・人間関係の良好な体制づくりにまで対応するようになっている。

医学分野の労働衛生では、主にいわゆる職業病の原因と病態の解明を行うことによって疾病の予防体制を確立することを行っていましたが、いわゆる職業病などに関係した特殊健診よりも、生活習慣病に関する健康診断が多く実施されている。

また、山陰労災病院では、病院の開設当初から長い間、女性の労働を軽視していたこともあって、診療科に産婦人科を設置していなかったが、2013年に産婦人科が開設され、それに伴い小児科も開設され、総合病院として機能するようになった。

産業保健の範囲も、メンタルヘルス(心の健康)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)の予防にまで拡大されているので、産業保健従事者は今までの活動の範囲を越えて活動したり対応する必要がある。

産業医や産業看護職そして衛生管理者などのあり方も労働と疾病という関係のみではなく、職業に従事する人間として労働者に対応し、生活全体(職場、家庭、社会生活)を考慮に入れた健康管理と指導が大切となっている。
その上、人口の高齢化に伴い労働者年齢が上昇したことにより、年齢に応じた労働者の身体機能を十分に考慮した作業の工夫と適性配置を実践しなくてはならなくなった。これらのことなど、急速に変化する労働者の状況に対応した支援を可能にする体制を実現しなくてはなりません。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

産業保健を支援する実施体制は、47の都道府県に、その拠点として「産業保健総合支援センター」(以下センターという、鳥取県では、鳥取市扇町に設置)と地域産業保健事業を支援する地域の窓口(地域産業保健センター、鳥取県では、東・中・西部の医師会館内に設置)が連携して行っています。

センターは県内全事業場を対象として専門的な産業保健(メンタルヘルスを含む)相談、産業保健スタッフの研修、産業保健に関わる情報提供等を実施し、地域の窓口(地域産業保健センター)は県内の主に労働者50人未満の小規模事業場を対象として、労働者の健康増進(メンタルヘルスを含む)に関する相談、健康診断の結果についての医師からの意見聴取、長時間労働者に対する面接相談など広く実施しています。また、メンタルヘルス対策支援事業とも一元化され、こころとからだの相談が一度の手続きで「ワンストップサービス」として必要な支援が受けられるようになりました。

産業保健サービスも時の流れにつれて内容が変化して、作業環境管理や作業管理が改善されたことにより、特に職業性疾病は業務上の負傷や事故を除けば、物理・化学的因子や中毒による疾病は激減しています。それに変わり、定期健康診断では、生活習慣病のような一般疾病が労働者の健康に影響を与えています。また、作業内容の変化や職場の人間関係が複雑化することによりストレスなどによる精神障害に関する事象も増加し、産業保健対策も更に進化し検討しなくてはならないと思っています。

生活習慣病管理は医療との連携が重要であり、産業保健を担当するスタッフ(医師・保健師・衛生管理者等)は、臨床医学的知識・技能・対応を習得する必要があり、産業保健スタッフ研修のテーマにも生活習慣病などについて取り入れると共に、センターや地域の窓口は医師会機能に密着して運営することも視野に入れる必要を感じています。これらのことを念頭に入れ、産業保健の支援事業もさらに発展させるため活動の方向を充実改善することが大切と考えています。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

大型連休も明けて、”休みぼけ”から仕事に体調を合わせることに努めている人も多いと思います。
季節の移り変わりも早く、この間まで桜見物を話題にとりあげていましたのに、もう つつじも満開となり、松の木の「みどり摘み(今年新しく伸びはじめた新芽を摘み風雅な樹形を調えるために美しい枝振りをつくる手入れをすること)」をしなくてはならない時期になりました。

新入社員も会社組織や仕事内容に上手に適合する者もいれば、「五月病」にかかり、職場に適合出来ず一人で悩んでいる者もでてくる時期であると推測されます。
そのため、「みどり摘み」のように手入れ(適切な相談と指導、助言)をしてやることによって、それぞれの職場に適合出来るような体制を調える時期でもあります。

仕事に上手に適合した者はほめてやり、一層その人の特徴を伸ばすことの出来る体制をつくることや適合困難な者には、メンタルヘルスの不調を未然に防止するため、一次予防(精神的健康の保持・増進)の実践が必要な場合があるでしょう。

携帯電話のメールでコミュニケーションに慣れた世代を育てるための方策に”赤ちょうちんで飲んで話し合う”では、とても共感や理解をえることができるとは思えません。
人事課の担当者や上司など管理者は産業医等と相談して、ストレスチェックを活用して各個人のストレスの程度や内容を把握し、個別の課題に対応する策を講じることが重要となります。

産業保健総合支援センターでは、専門的相談員の指導を受けながら、地域産業保健センターでは鳥取県内の東・中・西の各医師会に配属されているコーディネーターを通じて、それぞれの事業場の協力を得ながら、取組みやすい体制を調えていく予定です。

産業保健の発展のために、皆様の御理解・御協力をお願いいたします。