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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

平成306月に労働基準法や労働安全衛生法などの労働関連法の改正と併せて、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(「働き方改革関連法」と略す)が成立し、平成307月に公布されました。

「働き方改革関連法」は、働く人が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を自分で選択できる環境を社会や企業内に構築することを目指しています。
このことは産業保健の立場からも望ましいことと考えます。しかし、これを達成するためには、日本の企業の採用体制である終身雇用体制をどのようにするのか、などの阻害要因も改変する必要があります。現代では、新自由主義の考え方やグローバル化により、日本人が外国で採用されたり、日本国内で外資系企業に就業している場合もあり、有期雇用契約など海外の労働文化が取り入れられるようになりました。

労働を実績或いは結果のみで評価する成果主義が、日常的に企業の人事評価、賃金評価に採用されるようになりました。これは、自分の評価を良くしようと努める日本的文化、身を粉にして(粉骨砕身)会社のために働く親方日の丸の美徳精神に反し、日本的労働者が実績評価の労働環境の中で、「時間外労働の上限規制」や「年次有給休暇の確実な取得」等を自らを律して受け入れてくれるか疑問に思います。

一方、我々は貨幣経済の文化のなかで生活しています。貨幣を使って食物を得たり、生活を実践していますので、貨幣を得るために働かなければならないと考えています。しかし、ただお金を得るために仕方なしに仕事をする「いわゆる食うために働く」という労働者が多く存在するようになっているのではないかと心配しています。

働き方改革の推進のためには、人生改革なり労働者個人の生きがいの確立がなければ、改革の意義が見えてこないし、必要性が十分に理解できないと思います。

産業保健の立場からは、この改革により、まず労働者の健康維持確保が容易なることを期待しています。そのうえで、労使とも自然観、人生観、死生観などを持ち、改革の意義がそれぞれの労働者の人生に適合して達成されることを期待します。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

国会の委員会の質疑を聞いていると、年金の支給が困難になりそうであることと「生涯現役社会」という言葉が現実味をおびてきました。
年金問題は人口の高齢化(人口構成がつぼ型になった)により賦課方式を採用した年金制度の弱点が表面化して、国が掛け金として徴収し運用することで年金の財源を確保し続けると設定していましたが、資金運用がスムーズにいかなかったことや年金を掛けていなかった高齢世代に年金等として支払い資金をつかってしまったことにあります。また、人口(特に徴収対象となるであろう若年労働者層)がこれほど早く減少するとは予測していなかったことにも問題があります。更に、年金問題とは別に若い労働人口の減少は労働力不足をまねき、企業活動が困難になってきていますので定年後の高齢労働力の活用は必須の条件となっています。

2013年に人口構造の中で4人に1人が高齢者(65歳以上)となったため、高齢者が社会構造を維持し、持続性社会を活性化する重要な役割を担うようになってきています。そのため定年後も就労する高齢者が急増し、若年労働者と再雇用された高齢労働者がバランス良く活躍する社会をどのように構築するかが昨今の課題となってきていますが未だ未整備のままであることが懸念されます。

日本の年金制度自体を維持することは可能と思いますが、「終身雇用体制」が崩壊した影響で、将来の年金については安心して生活できる金額が確保されるのかどうか、あやしくなってきました。

このため自助努力や自己責任で定年後も労働を続け、自分自身でそれぞれの生活水準を維持することの必要性が政府より公表されるようになりました。それには現役の時から定年後も働き続けられる健康と体力を維持しておくことが前提となります。

これまで、「在職中」を基本としていた産業保健の健康管理の在り方は、定年後も就労を続ける現在においては、根本から見直す必要があります。今日の「働き方改革」は、働く人が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を自分で選択できることを目指しており、ややもすると現役の若い労働者のみの就労条件の改革と考えられていますが、60・70歳代の高齢労働者の就労を可能とする改革も盛り込まれることが望まれます。

現役の労働者の70%が中小企業・小規模事業所で働いている現況の中で、資金力が少ない中小企業に、社会問題を自ら受けとめて対策を講じることは難しいと思われますので、社会全体で、更なる「新しい働き方改革」を構築することが急がれます。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

最近、日本の経済界の関係者などから、日本の労働者の採用及び就労条件の基本であった終身雇用について、「これからは終身雇用制度を守るのは難しい」とか「終身雇用制度はもう守れない」という談話があることをマスコミが報じるようになりました。このことは、日本の資本主義体制とそれに基づいて成立している労働基準法や日本の労働法規の根本をゆるがす言動であると注目されています。一般的慣例として、日本では会社に採用されて就職すれば定年(退職する年齢をあらかじめ定めていること)まで、その会社に勤務することが保障されていると労働者は考えていると思います。かつ正当な理由なく解雇されることもなく安心して勤務を継続できると多くの人は考えていると思います。

18世紀にイギリスで産業革命がおこり、近代資本主義が始まりました。自給自足により生活する、或いは自分の能力や技術で作った商品を売って収入を得ていた時代から、自営業者や会社のオーナーなどを除いて、一般の多くの人は1日に8~12時間、工場等で労働者として仕事をする、いわゆるサラリーマンとして労働し、その対価として報酬(賃金)を得て生活するようになり今日まで続いています。
そして、日本で生産される自動車や電気製品などは、長期間の労働が保障された労働者による熟練した技術によってこそ、品質の良い製品をつくることができたのです。
特に自動車などの製作にあたってはデザイン・インの思想が取り入れられ、製品の設計段階から、部品メーカーと自動車メーカーの間で情報を共有し、部品メーカーは単なる「下請け」ではなく自動車メーカーのパートナーとして、部品同士の「擦り合せ」により、製品全体の精度と完成度を高めて故障の少ない良質の製品を作り上げる事が出来ました。また、このことが消費者からも信頼を得るようになり、やがては世界市場で販売競争に勝てるようになり、日本経済はめざましい発展を遂げることが出来ました。

しかし、反面、このような親会社と子会社の関係は、日本の既得権益の構造、すなわち部外者を寄せ付けない政・官・業の癒着構造を生み、新製品の開発にややもすると努力をしなくなり日本経済の活力を奪い始めたのです。

そして、1980年代後半より日本社会に新自由主義が浸透するようになり、グローバルスタンダードに影響された市場至上主義の価値観が日本社会で受け入れられるようになりました。これは自由競争の体制で上手に稼ぐことが「資本主義の正義」と考えられるようになり、その結果として競争に敗れた者が倒産したり、職や財産を失う時代になりつつあります。

新自由主義による格差の拡大や終身雇用制度から有期雇用制度への変化は定期昇給がなくなり、低賃金による生活苦を自己責任として考え、正当化されるようになります。また契約雇用では雇用の流動化がおこり、企業間の労働力移動が活性化し、高い仕事能力を持った労働者が更に自分の能力を活用することが出来る場合は、社会の発展につながります。しかし一方で、短期雇用により必要な仕事の能力が身につかないままの特に若い労働者が増えれば、雇用の安定性が保てなくなるばかりではなく、熟練した労働力を確保出来なくなり、良質な製品の生産ができなくなるどころか、ひいては伝統的日本的資本主義が維持できなくなります。
みんなが求める幸福な社会、みんなが心豊かに暮らせる社会の実現は難しくなりつつある気がいたします。

終身雇用制が自壊し、有期雇用で労働することが本当に日本社会の安定的発展につながるのかどうか、「働き方改革」に合わせて考えなければならない時期に来ていると考えます。

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新入社員の皆様も4月以来、順調に職場の雰囲気や仕事に慣れてこられたことと思います。
2019年4月1日より「働き方改革関連法」が施行されました。
改革の内容には各種ありますが、その中で注目されているのが「時間外労働の上限規制」が導入されたことです。(中小企業は2020年4月1日から施行)これは1947年に制定された「労働基準法」によって決められた時間外労働に関する初めての改革です。
産業革命時代において、労働者に過重労働を嫁したため労働者が身体的・精神的に疲弊することによって生産性が低下するようになり、これを回避するために、適切な労働時間(当時、一日16時間労働でした)を検討する必要に迫られました。過重労働により健康障害の徴候が表れ、このまま労働を継続すると主に循環器疾患(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、急性心不全、急性心筋梗塞など)を発症し、発病から死亡までの時間が2時間以内の”いわゆる突然死”が多発するようになりました。そこで1日の労働時間は8時間が適切であると考えられ、労働基準法にも採用されました。

さらに最近になって、時間外労働(8時間を超えて働く)が月45時間を超え、月に80時間や100時間を超えると「過労死」が発生すると言われるようになりました。過労死の概念は身体的(又は医学的)条件と社会科学的要因が重なって起こると言われています。過去には、生活習慣病の素因があったり、治療中に長時間残業による突然死が発症しても、身体的理由とされて業務上で発生した事例と認められませんでした。

今日では過労死認定には、認定基準(発症直前もしくは24時間以内の災害的な出来事また、発生1週間以内の過重負荷の継続など)と併せて身体的条件も考慮し判定され認められるようになりました。
また過重な量的労働負担の急増、仕事の責任の増大、ノルマの急増や人間関係の精神的負担が重なり、それを起因とした過労死事例が報告されるようになってきました。

この度の改革で一日の労働は8時間を基準とし、これを超える残業時間の上限を規制しました。残業時間は原則、月45時間、年間360時間(1日当たり2時間程度の残業)を上限としています。臨時的に特別な事情がある場合に労使の合意があれば、年間720時間以内、複数月平均80時間、月100時間以内(1日当たり4時間程度)の残業が可能となりました。
長時間労働に関する問題は、仕事場の人間関係や昇進・昇格などの情状的ストレスによって起こるうつ病や自殺などの発生関連要因となることなど、幅広く考えられようになっています。

御自身の労働時間を適切に管理し、労働時間以外の生活時間の使い方、過ごし方を工夫しながら快適な職業生活を送って下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新元号「令和(2019年5月1日から)」に変わる平成31年4月に新社会人の皆様は入社され、健全に勤労されていることとお祝い申し上げます。

新しい職場で仕事への期待に夢膨らませてご活躍のことと思いますが新しい仕事に携わるには、さまざまな能力が必要です。早く仕事に慣れスムーズに生産活動に従事されることを期待しています。
産業保健に携わる我々の立場といたしましては、上手に仕事に適応され、身体的にはもちろん精神的にも快適に対応されることを望みますが、全てが当初からうまくいくとは限りません。
種々の困難な場面に直面することもあります。この時には、まず各職場で上司や同僚のサポートを得たり、相談することにより乗り越えることが必要です。しかし、職場には乗り越えられない社会状況や仕事場の環境、あるいは古くからある労働環境や仕組がありますので、働き易くすることを目指して平成30年に「働き方改革を推進するための関連法律(労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法等)」が改正、整備され、平成31年4月1日より施行されました。これにより労働者の就業環境の改善が期待されています。

鳥取産業保健総合支援センターでは、あらゆる労働者の健康管理に関係する事業を行ったり、必要な健康教育の機会などを提供するとともに、事業主や産業医など産業保健に従事する者の業務の支援を行っています。

新しい労働者のみなさんには耳慣れないと思いますが「産業保健」ということばをこの所長のページでよく使います。
産業保健というのは医療従事者が活動している一つの分野です。
内容は全ての働く人の健康を守り、安心して働ける環境を構築し、併せて企業体の健康経営の向上を図ることを目指した実践的活動です。
働き方改革関連法の内容には、時間外労働の上限規制などが新たに制定されましたが、そのなかで一般的には注目されにくい改革として、産業医・産業保健の強化という項目があります。その一つは、産業医の立場について独立性・中立性の強化がはかられ、公正な立場で判断、活動できるようになったことです。また、事業主は産業医の業務内容・労働相談の申出方法等を、常時各作業場の見やすい場所に掲示する等により、労働者に周知されなければならなくなりました。
そして産業医は労働者の健康管理等を行うのに必要な知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならないとされました。

産業医が健康相談に対応することが制度化されましたので、労働者は身体的・精神的な不調があれば早めに産業医に相談し、不具合なことが進行しないように対処し、その上で、貴重な労働力を長年発揮することで、生産性の向上に寄与されることを期待します。