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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

日本式の働き方改革については、古来の日本人の働くことに対する意識を改革することが必要であると前回述べました。
特に今、話題となっている改革の目玉が過重労働対策です。過重労働をキツイ作業あるいは重い荷物を手で扱う肉体的に強い負荷がかかる作業というよりも、長時間の時間外労働あるいは休日出勤などの労働時間の蓄積や、休息時間が十分得られないまま労働することとしています。
すなわち長時間労働(1か月の時間外・休日労働時間が80時間を超える労働など)に着目して、この影響によってメンタルヘルス不調、身体的健康障害の発生、あるいは持病の悪化などが起こることを課題としています。
しかし、心身の不調をきたすのは、働いている時間の長さに着目することも必要ですが、それ以上にいわゆる労働時間以外の個々の生活時間とその過ごし方に注意を払うことも必要です。労働時間以外の過ごし方はそれぞれの人によって異なるので、検討するのが困難なことも多いのですが、労働時間外にも健康生活を送れるよう奨励する努力を企業においても取り入れていくことが必要です。

労働時間以外は会社を離れて、いわゆる休息時間はあるはずですが、社会的生活を過ごす上で、地域で行われる行事に参加する社会活動やPTAとしての学校行事、庭や畑の仕事のほか家事労働等を行うことによる肉体的疲労に加え、更に家族問題などの精神的負担も伴う場合もあり、休息時間の確保が難しいのが現実です。いわゆる日常生活の健康管理も視野に入れた広い意味での産業保健を実践する必要があります。

「働き方改革」のなかで、長時間労働となっている長距離ドライバーの休息時間が話題になっていますが、一般労働者においても、休息時間、睡眠時間のほか「勤務間インターバル」についても注意をしなければなりません。

企業の健康経営の実現には企業の様々な対策も重要ですが、労働者一人ひとりがまず健康生活を実践することが大切であるし、それなくしては労働者の健康維持は出来ません。改めて、これまで言われている日常の健康管理の実践の重要性に気づかされた「働き方改革」の政策です。

病気の治療をしながら働く人の労働を可能にする両立支援も広い意味で健康管理として行うことになりますので、新しい視点で産業保健を実践する必要があります。


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鳥取産業保健総合支援センター所長  能勢 隆之

 

「働き方改革」が提案され、日本人の仕事(働く事)に関する考え方を変えることが必要ではないかと思うようになりました。労働者の長時間労働それに関連した健康障害の発生や過労死については、今まで日本人は、よく働く働き者であることと好意的に、ややもすると良い事、あるいは賞賛されることとして受け入れられていたような気がします。

しかし、働き方改革の方向は、この事を必ずしも良いことと考えないで改善しなければならないとしています。そもそも日本人の労働観あるいは「仕事をする」ということについてどのように理解されているのかが、気になります。日本での仕事の語源は「仕える事」でした。これは古くは神様に仕える事あるいは神事としての尊い行いを意味する言葉でした。一方「労働」という言葉には「苦役」という内容が含まれています。キリスト教文化の国などにおいては、日本と違って「働く事」は嫌なことで早く済ませてしまいたい、あるいは出来るだけやりたくない事と理解されているようです。もしかしたら日本で行っている長時間労働や過労死の問題は、日本人独特の価値観から起こっているのかもしれません。

8時間労働の根拠は前にも述べましたが、産業革命以降につくりあげられた基準で、人間の能力や体力等に合わせた科学的根拠があるわけではありません。
「労働する」ということは、今日の資本主義社会経済の中では賃金という対価を得て行うことですので、弱者である労働者を守るために労働基準法を制定し、健康で安全な労働を保障するようにしたわけです。

学歴社会のなかで子供の頃から長時間勉強することを良いこと強制(?)されて、長時間勉強は良いこと必要なことと慣らされ大学に入学するにも四当五落(すなわち五時間以上寝ると不合格で四時間以内の睡眠でない合格しない)などと言われ、競争社会で生き抜くためには、長時間勉強したり、働くことが必要なことと、自然に受け入れられるようになっているのに気づいていないのではないかと思います。また、有給休暇の取得率が低いことも、仕事より自分の都合を優先させたり、多くの休暇をとる事で、同僚に迷惑がかかることと考える傾向が根底にあるのではないかと思っています。
「働き方改革」の実践あるいは論議には、日本人の古来の価値観を見直す必要があると思っています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター所長  能勢 隆之

 

私傷病等で休職又は休暇をとった労働者に対して、課題となっているのは職場復帰や復職の可否判定要領です。
事業主や産業医が復帰や復職可否の判断をするにあたっては、傷病の種類と復帰後どのような作業につかせることが出来るかによって決まると思われます。
傷病統計によると、業務上で発症する疾病で最も多いものは「負傷に起因する疾病」であります。これは外傷や骨折などで外科的な治療が実施されますので、外傷時に内蔵等の疾病がないかぎり、回復後は、もとの作業に復帰可能と判定することが比較的容易と考えられます。障害が残った場合は、作業内容に配慮が可能かどうかが課題となります。次に統計上多いのが「異常温度条件による疾病」で、その多くは「熱中症」ですが、それほどの重傷になっておらず、入院治療後の後遺症もなく適切な作業環境下であれば、復職復帰は可能です。

その他には、作業態様による職業疾病たとえば「職業性腰痛」などであれば予防対策指針があり、職場復帰することもこれらのマニュアルに沿って可能です。

最近話題となっている新型インフルエンザなどは、それにより時には死に至る(特に慢性呼吸器疾患、慢性心臓病、慢性腎臓病などの持病がある人)場合もあり、医師から感染労働者に自宅療養等が必要と診断されたら、事業主としては、同じ職場の労働者への感染を拡大させないためにも、出勤させることは適当ではなく、病気休暇(年次休暇)による対応が妥当と思います。
その場合の仕事への復帰ですが、ウイルス感染症は発熱などの症状がなくなっても感染力が続くこともあるため、熱が下がっても2日目までは外出自粛の目安とし、その後に出勤させるかどうかを判定するこが適切と思われます。

事業主には労働者が、その生命、身体等の安全を確保するために、必要な安全配慮義務があり、疾病や感染している労働者の休暇後の職場復帰の判定にあたっては、産業医の意見を参考に最善の措置をとる必要があります。主治医から治癒証明書や陰性になった証明書等の提出があれば復帰判定もし易いのですが、法律で指示されている感染症(結核・AIDS等)その他の疾病でも、証明書を提出してもらうことが難しい現状ですので、主治医からの治癒証明書等は期待出来ないことを知っておく必要があります。

がん、心臓病、糖尿病などのいわゆる生活習慣病による長期療養後の職場復帰については、「治療と職業生活の両立支援」をする就労支援事業がはじまり、治療中に復帰の可否についての判定を行うこととなりますが、個別性が強く、一様にはいかないことと、反対に疾病を憎悪させるおそれもあることなどを考慮する必要があります。

メンタル疾患の長期療養後の復職については、復職判定は主に症状の回復状況により評価され判定されます。主治医は復職可能としますが、必ずしも職場環境を理解して判定しているとは限りませんし、業務遂行能力を復職後に担当する作業内容を分かった上で判定しているとは限りません。よって主治医の診断書のみで職場復帰の可否判定をすることは避けた方が良いと思います。
あらかじめ復帰判定委員会を設置しておき、リハビリ出勤制度をつくるなど復帰支援プランを策定しておくのが良いと思います。復帰復職判定は復帰後憎悪することもあるので、あらかじめ復職ケア体制を設置しておくことが必要です。


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鳥取産業保健総合支援センター所長  能勢 隆之

 

最近、欠勤や休業後の職場復帰について、いろいろ検討されています。職場復帰ということは、その前に休職という状態が起こっていることになります。
休職とは、しばらくの間、働くことが出来なくなったと見込まれた時に、雇用関係を維持しながら一定期間働く義務を免除されることで、一般的には私傷病休職、自己都合休職、関連企業への出向休職等があります。
休職制度を各企業で取り入れているのは、労働力不足のこと等もあり、雇用条件を良くするため、法律で定められてはいませんが、私傷病などで働けなくなった正社員あるいは会社によっては有期契約社員や非常勤雇用社員について、社会通念上、急にそれを理由に辞めさせることが出来なくなったからです。

育児休業や介護休業のように法定休業は一般的に取るように推進されていますが、私傷病休職とか、自己都合休職には、事業場がやむを得ないと認めた場合に限るなど就業規則に定めておくことが大切です。
それに関連して、私傷病(生活習慣病、メンタルヘルス不調など)による休職について多くある課題の一部をあげてみたいと思います。業務外の傷病の場合、重篤であり長期の治療を要する例えば入院治療が必要で休職する場合は、申請にあたり医師の診断書を提出することが一般的ルールになっています。この時診断書に、治癒見込み、病気の経過を予測して書くのは困難な為、明確に記入しにくいことが多くあります。
産業医にとっても、主治医からの情報では判断することが難しいので経過を見ながらの判断(診断)になります。
もちろん本人と事業場側も連絡をとりながらになりますが、休職中は、雇用関係を維持したままの状態なので、復職の目途が立ちにくい場合は事業場全体の体制も立てづらくなります。

例えば、私傷病が感染症のような場合は、インフルエンザであれば他人に感染する恐れがなくなった場合(解熱して症状がなくなって23日経過した場合など)は主治医は復職可能と診断できます。しかし、最近のウィルス疾患は生命に影響を及ぼすようなものもあり、場合によっては労働者の家族にも出社を制限するように言うこともあり、復職についても複雑になっています。

また、結核のように慢性で長期間の罹病期間があり、休職も長期間になりますが復職については、結核予防法に定められていますので、主治医も比較的判断がしやすいと思います。

一方、最近では生活習慣病や精神疾患の復職就労支援が産業保健の対象になっています。高血圧、心臓病、がん(白血病など)そして精神疾患(うつ病、統合失調症など)は、寛解の経過(一時的に治療成績が好転したりあるいは症状が消失して完治は望めないが当面の適切な治療により社会復帰が可能な状態)をたどりますので、この状態では就労支援体制がしっかりとられれば復職が可能となります。
この場合でも、復職のためには主治医の診断書が必要となります。医師によっても判定が当然異なることがあっても不思議ではありません。また産業医によっても復職可能と判定しても就労条件などが異なることは十分予測されます。
復職後の体制の整え方など多くの課題があり、対策がまとまっていないので、今後(衛生委員会なども含め)あらゆる人の知恵を集めての対応が必要です。この所長のページでも総論、各論について意見を述べてみたいと思います。(次号につづきます)

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

新年おめでとうございます。
今年も鳥取産業保健総合支援センターは県内の企業・行政機関等で働く労働者の健康管理の支援に努力してまいります。皆様の御協力、御理解をよろしくお願い申し上げます。

厚生労働省は労働関係7法に係る「働き方改革関連法案要綱」を提示し、来年4月1日(改正法成立時期により変更あり)を施行期日と見込み、「働き方改革」を提唱しています。今年はその主旨に沿って時間外労働の上限規制や非正規労働者の処遇改善等の改正を目指しています。
そもそもこれらの施策は20年以上も前から2025年問題として言われていたことで、最近急に起こった問題ではありません。その基本は少子高齢化による労働者不足と年金受給対象である65歳以上の人口が一気に増加することです。特に地方においては社会的人口流出の加速により急速に人口減少となっています。

産業の原動力である労働者がいなくなれば企業の廃業はやむなしとなり、新規起業や企業誘致は期待出来ません。この対応措置としてとられるのが在宅女性の企業での活用、退職後の高齢労働者の再雇用、発展途上国からの外国人労働者の受け入れ等です。
この措置については、将来的な労働者不足現象の懸念に対する予防政策として提起されたのではなく、問題が発生してから事後対策としてとりあげられたので、実践するにはかなり困難な条件を内在しています。
また、これらの労働者の増加は、今までの産業保健の基本となっている終身雇用制度が実質的に変化していることであり、健康管理対策を立てる上で多くの矛盾を惹起しています。

たとえば各種有害作業や危険作業に不慣れな労働者を従事させることにより、急性中毒や墜落・転落などの災害の発生、および、女性や高齢者などの比較的体力不足の労働者が荷物運搬などの過重な労働により健康を害することが起こります。
また、共同作業、連携作業の不慣れによるストレス、パワハラの発生、能力不足(理解困難)のため知的ストレスによる身体異常の発生などにより、従来の健康な労働者としての健康管理の考え方では不都合、不適切な対応が発生することとなります。
職場の労働衛生対策についても、従来行ってきた基本健診や生活習慣病対策などに加え、職場における救急医療、外国人労働者なども含めた労働者間のコミュニケーション不足、労働安全衛生法令上健康診断が義務付けされていない労働者の健康管理、特にメンタルヘルスなどへの対策の必要性が生じています。

一方で、人工知能やロボット、機械化の導入等による労働者のテクノストレス、疲労蓄積と対応不足がふえています。
これらを考え、毎年同じことを繰り返して行う基本健診を毎年受診すること、ストレスチェックを年1回行うことで労働者の健康と精神状態の変化のチェック、そして作業場のメンタル不調のモニターを実施することが必要です。

企業の健康経営の考え方が普及し、安全・安心な企業活動が更に前進する戌年になることを願っています。