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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

◇新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、ワクチン接種を事業場で行うことが大企業を中心に実施されています。事業場で従業員にワクチンを接種することは、労働者の健康問題に係ることですので安全衛生委員会等で審議し、事業主の責任で接種することになります。事業主は産業保健の目的を達成するため、ワクチン接種の意義や効果などを適切に理解し、今までの職場での感染症対策(ウイルス肝炎、エイズ、インフルエンザなど)を参考に検討する必要があります。

◇今回使用されているワクチンは遺伝子(m-RNA)を活用した新しいタイプのワクチンであり、臨床試験なども不十分であり、今まで日本で承認されているものと異なりますので、有効性(人体の筋肉細胞内で産生されたウイルススパイク蛋白の安全性、中和抗体の特異性の有無、そして抗体の持続期間など)やワクチン接種後の副反応(発熱、疼痛、人体有害性など)の発生が明らかになっていません。

◇さらにもう一つの職域接種に係る問題は、事業主に依頼されて接種者不足のために産業医がワクチンを接種することです。産業医の任務(健康管理、健康診断、職場巡視など)は多岐にわたっていますが、通常は職場内に診療所を開設し、健康相談等に対応しているだけで直接医療行為はしていませんが、ワクチン接種は医療行為の内容に含まれます。嘱託産業医との産業医契約においても、ワクチン接種は産業医の任務に入っていないのが通常ですので、留意が必要です。

◇また、従業員にワクチン接種を勧め、みんなが接種したのでもう感染はしないと過信して、従業員の行動が3密(密集、密接、密閉)を怠るようになると、集団免疫が確立されているわけではないので、事業所内でのクラスター発生などにより社会全体での感染爆発がおこるかもしれません。

◇改正感染症法の内容は、産業保健対策とは必ずしも連動しているわけではありません。事業場におかれては、緊急事態宣言などで要請されている自粛、および働き方の工夫を行いながら、それぞれの職務を実施することが必要です。

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

年金受給開始年齢が65歳に延びたことなどもあり、高年齢労働者(60歳以上の労働者)の就労が増加しています。このため、高齢労働者が安心して安全に働ける職場環境を実現することを目指して、エイジフレンドリーガイドライン(高齢者の加齢による身体的・精神的特性を考慮した安全と健康確保のための取り組み指針)が策定されています。

高齢労働者の就労の現状は、60歳以上の雇用者数が過去10年間で1.5倍に増加し、特に商業、保健衛生業(介護支援など)、サービス業などの第三次産業と体力(筋力)を必要とする労働および夜勤労働(高齢者は生理的に適応が難しい)などの分野で増加しています。高齢者の身体機能は近年向上しているとはいえ、壮年者に比べれば聴力、視力、平衡機能、筋力などの低下は否めないため、転倒等に起因する労働災害の発生が多くなっています。

このため、予防医学的には今までのように生活習慣病にならないことや身体活動能力の低下を予防することだけではなく、いわゆる健康増進といわれるごとく、通常の生活機能の維持も対策に入れなくては手遅れになってきました。

今までは身体的機能低下の目安として、①体重減少 ②筋力低下 ③疲労感 ④歩行速度低下 ⑤低活動性(動作が遅くなる)などの5項目をチェックし、3つ以上該当すると機能低下があると基準に定めてきました。このような状態を「フレイル」といい健康な状態と要介護状態の中間的状態であるとして予防医学的に対処してきました。このように身体的フレイルはよく理解されていますが今後は精神心理的フレイルにも注目する必要があります。

メンタルヘルス対策では「うつ病」がとりあげられましたが、これからはプレメンタルヘルス対策としての「うつ傾向」に加え、労働者の高齢化にともなう「認知機能」もチェックして、就労に影響を及ぼす前におこる加齢による精神反応について労働者に自覚させることが必要です。今日話題にあがるのが、認知機能が少し低下した状態である「軽度認知障害(MCIエム・シー・アイ)」であり、この理解が職場全体に普及することが必要です。

MCIは、認知症の診断基準を満たさず、日常生活活動は通常に保たれながらも自覚を伴う加齢以上の認知機能低下がある状態で、一般住民に6~10%はみられており、高齢になると少なからず存在しているといわれています。これは本人に自覚がなく、周辺の関係者も分かりにくいため、就業中によくトラブルをおこす存在となっています。

すべての高齢労働者に可能性がありますので、MCIスクリーニング検査を職場で取り入れ、労働者自身がまず認識し、就業中に不都合が起こらない対策を行うこともエイジフレンドリーガイドラインをスムーズに実践することの「助け」となるでしょう。

 

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

令和2年(2020年)4月より働き方改革関連法が施行されました。働き方改革の目指すものは、働く人々が個人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を「自分で選択」できるようにすることです。これは日本古来の労働する価値観を変える(不要で古めかしい考えを見直し、我々みんなが新しい価値観を受け入れる)ことを意味しています。

日本は天然資源が乏しく、原料のほとんどを輸入に頼り、ものづくりを経済の主力として資本主義経済体制を発展させてきました。そのため労働者は年中休みをとらないで無休で勤勉、実直を働くことを美徳としてきました。また、精密で壊れない良い製品をつくることを日本人の正常な生産価値であると受け入れています。このことはちなみに世間では夫とするのは勤勉な青年(身長が高く、学歴が高く、給料が高い、いわゆる3高の若者)、そして嫁としてめとるのは実直な娘(誠実で正直、慎ましい女性)が良いとする風潮がつくられてきました。また、まじめな良い会社員は始業10分前には机につき、始業時間になると朝礼のために全員が起立して上司の仕事の方針等を聴き、昼食は決まった時間に食べ、休憩時間には健康のために体操をさせられ、ライン作業であれば定時に出勤、退社し、ホワイトカラーや職人であれば労働時間にしばられることなく働くことを経営者は良とし、ややもすると結果を出すことも大切だが、苦労を重ね努力している人は決して批判されない風土がありました。

このことを変えるため、働き方改革では長時間労働の上限規制により残業を削減する、年次有給休暇を確実に取得する(年中無休で働く者をなくする)、フレックスタイム制を拡充して就業開始が異なった勤務体制をとる、勤務間インターバル制度の導入により休息時間を確保する、テレワークや変形労働時間制の導入により弾力的な働き方を可能とし、労働時間にとらわれるのではなく結果の評価としての成果主義がとり入れられつつあります。
そして、「ダイバーシティ」や「自由な働き方」の考えのもと、連鎖反応として勤務の服装が制服でなくなり、女子社員のお茶の給仕がなくなり、マイボトルの持ち込みや席の自由化がすすむなど新しい職場の空気がただよい始めています。
しかし、いまだに成果を残しても、就業時間を守り勤勉実直を良とする同僚や周囲の者は、遅刻や早退する者に対して納得するだけの理由(発熱などの病気になった)の提出を求めているのも現実です。

コロナ感染については、今までの感染症研究により、新しい感染症は2~3年でパンデミックは終息すると考えられていますので、いずれは収まると思います。
そして、ポストコロナは働き方改革がさらに進行すると思われます。経営者、労働者も、古い労働体制や産業構造にもどると信じるのではなく、もう二度と昔の体制にはもどらないと理解しておくことが大切です。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

本年4月より新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目指して、医療従事者などに続き高齢者を対象にワクチン接種が始まりました。次いで、65歳以下の方を対象に接種が実施されるようになると思います。今までは認められていませんでしたが、事業場においても産業医による接種も検討されているようです。そのため、事業主をはじめ衛生担当者は、新しいワクチンの正しい知識を習得しておくことが必要と思います。

予防接種法においてワクチン接種の目指すものは、国民の多く(60~70%)が抗体を保有し、病気の流行を抑制しようとするものであり、かつ国民一人一人が病気に感染しにくい体質を獲得することにあります。法による定期予防接種などは、国民に理解と協力を求めて予防接種を受けるように努める(努力義務)ことをすすめています。今回実施されるコロナウイルス感染予防のための予防接種も義務ではありません。労働者が作業環境や作業内容に応じて自分の意志でメリットやデメリットを考慮して接種を受けるかどうかを判断し、行動することが肝要です。そのため事業場においても、労働者にワクチン接種の必要性やどんなものであるかを学習してもらう機会をつくることが必要です。

今までのワクチンは、生弱毒性微生物を体内で増殖させ人体の免疫系を刺激して抗体をつくる生ワクチン(BCG、風疹、水痘など)と、ホルマリンなどを添加し微生物の免疫抗原性をそこなわず無毒化した不活化ワクチン(ポリオ、百日咳、日本脳炎、インフルエンザ,B型肝炎、肺炎球菌など)の2種類を活用していました。

このたび新しく開発されたワクチンの仕組みには、人工的につくった新型コロナウイルスのスパイク蛋白質全長をコードするmRNAといわれる遺伝物質を脂質の膜に包んだワクチン、あるいは比較的病原性の弱いウイルスをベクター(運び屋)として利用したウイルスベクターワクチンの2種類があります。接種されたワクチンは、細胞に取り込まれ新型コロナウイルス蛋白質が産生されます。このウイルス蛋白質は免疫システムによって異物と認識され、特異的な中和抗体が産生されます。それによって新型コロナウイルスに感染しても、ウイルス量や抗体産生能力にもよりますが、たとえ発症しても重症化しないといわれています。海外で開発された新型のワクチンですので、抗体の産生能力や効果の持続期間も日本においては明確ではありません。またデメリットとして副反応(重いアレルギー反応、発熱など)がおこることもありますので、リスクとして十分に了解しておく必要があります。

感染の拡大を阻止するには、感染者(無症状の抗体検査陽性者を含む)を早めに発見するため、日常的に抗体検査を受けることのできる体制をつくっておくことが必要です。しかし、公衆衛生対策を実践する機関で社会共通資本である保健所や衛生研究所が行政改革などによって削減されているのが現状です。今後国は予防医療体制を市場にまかせるのではなく、公に体制の整備をしておく必要があります。

たとえワクチン接種したからといって感染しないわけではありません。自己防衛は依然として必要であり、3密(密接、密集、密閉)を避け適切にマスクをして作業従事することを忘れないで下さい。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として感染が広がっている都道府県に「まん延防止等重点措置」や再び「緊急事態宣言」が発令されています。

宣言に伴い、国は大型商業施設、遊興施設や飲食店などの各種事業者に対して休業や酒類提供などの全面自粛などを要請しています。各々の事業場には今までどおり、いわゆる3密(密接、密集、密閉)を回避するとともに次の5つのポイントすなわち、①テレワーク、時差出勤の推進 ②体調がすぐれないときに気兼ねなく休めるルールの設定 ③職員間の距離の確保、定期的換気、仕切り、マスク着用しての作業 ④手洗い、手指消毒 ⑤休憩所・更衣室の混雑緩和などを確認するように求めています。

ところで政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、緊急事態宣言を発令するための条件として、「感染状況の悪化の予兆を早期に探知し、即座に対応するための概念(根拠)」を4段階のステージで設定しています。第1ステージ(感染散発)、第2ステージ(感染漸増)には特に指標はありません。医療提供体制の機能不全を回避するため、指標として第3ステージ(感染の急増)、第4ステージ(爆発的感染拡大)を設定し、第4ステージでは宣言を発令することにより、自動的に感染防止対策を強化(休業要請など)して医療の逼迫を回避することを可能としています。

このような対策をとる考え方は、株式市場の「サーキットブレーカー制度」という方法を参考に応用したものです。これは株の価格が一日のうちに一定以上大きく変動した場合の混乱を避けるため、あらかじめ株価の高値と安値の幅をきめておき(値幅制限)、それに達するとストップ高、ストップ安として株の売買を一時的に停止する仕組です。

この考え方を応用して感染拡大の混乱を避けるため、①病床の逼迫具合 ②療養者数 ③PCR陽性率 ④新規報告数 ⑤感染経路不明者割合などの5つの指標を決めています。コロナ感染はゼロにならない(ウイズコロナ)状況下で、これらを基にして指標の値が高く(悪く)なったら宣言を発令し、一定の値まで低く(流行減少)なったら宣言を解除するという条件を決めておくと、自粛させられた事業者や国民も少しは安心すると推測されます。

しかし、残念ながらこれらの指標も衛生統計システムが確立されていないため、どうしても不正確にならざるを得ません。その上、政治的判断に任せるとどうしても経済的影響を優先する傾向があります。そのため、あらかじめ宣言解除などの出口(指標)を決めておくことが必要となってくるのです。各事業場においても、従業員が感染した場合にそなえて対処方法をあらかじめ決めておき、疫学調査(接触者の処遇のため)としてのPCR検査を徹底し、感染拡大が予測されたら早目に休業措置をとるなど、感染機会を減少することが先決です。

このような早目の措置をともなった対策が、危機を回避でき事業の継続を可能にするものと思います。