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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

季節性インフルエンザが流行して感染の拡大が心配されています。今年の冬は暖かいこともあり、3月には流行が収まることが予測されていますが季節の変わり目、気温の変化、花冷え等があり、少なくとも3月いっぱいは警戒を怠らないようにすることが大切です。そのため言い古されたことですが、蔓延予防として手洗い、咳エチケットとしてマスクの着用を皆が心がける必要があります。
その上であらかじめワクチン接種による感染・発症予防や感染しても軽症で経過させる努力も必要です。
今回の流行は主にA香港型のインフルエンザによるものと言われています。A型インフルエンザウィルスは抗原変異がワクチン株を培養する工程で生じやすく、流行しているウィルスと必ずしも接種ワクチンが完全に一致しにくいため、接種による予防効果が充分に期待出来ないと考えられています。

事業者(会社)は、感染して発症した労働者と高リスク者である妊婦や高齢労働者などの感染弱者との接触の機会を出来るだけ少なくすることが求められます。
まず職場では感染防止策について労働者へ正しい教育や普及啓発を行う必要があり、欠勤した労働者の感染の可能性を予知しておくことも大切です。

また、今回はワクチン接種による予防効果が薄いことも考えられますので、感染機会の多い医療従事者には、ワクチン接種のうえに抗インフルエンザ薬の予防投薬を進めます。

一般的な労働者については、発熱などで体調が悪くなった場合は仕事を休むのが原則ですので、感拡散予防のために休業出来る職場環境を整えておくことも必要です。
ところで、インフルエンザに感染して休んだ場合の休業手当の支払が問題となる場合があります。

インフルエンザを発症した労働者が、身体状況から仕事を遂行することが困難であると考え、また医師の判断指導などにより、自主的に休業した場合は「使用者の責に帰すべき理由」に該当しませんので、普通に欠勤した場合と同様に賃金を控除、又は賃金を支払わないことで対応が可能です。

しかし、インフルエンザの感染が確認された労働者が有給休暇を取得せず、また欠勤もしないで「働ける」と考え出勤してきた場合に、事業者(会社)は他の従業員などに感染が拡大する危険を回避するため休業してほしいと考えます。一般的にはインフルエンザを発症した場合は熱が下がり2日間、出来れば約1週間は休ませることが感染拡大防止には必要と言われています。

出勤する意思のある労働者を事業者(会社)の判断で休業させる場合には、インフルエンザは労働安全衛生法で定める「就業禁止」の対象とする疾病に該当しませんので、休業手当の支払いが必要となります。
休業手当を支払う場合でも、病気や症状によって危険負担が異なりますので、労働者が安心して休業できるよう、あらかじめ「病気休業の場合の手当」の割合(60%~100%など)等を検討しておくことが雇用管理の面からも必要ではないでしょうか。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

人口減少に伴う労働人口の減少、高齢者の再雇用、女性の職場への進出促進など一億総活躍社会の実現に向けて政府主導の働き方改革関連法案が昨年可決成立し、平成31年4月1日から順次施行されることになっています。
これにより時間外労働の上限が制定されるほか、特に産業保健の強化や産業医の活動を支援する規則等が盛り込まれて、産業保健の充実とその実施の期待が高まるとともに、産業医の責任も大きくなりました。
振り返ってみると第二次世界大戦後の日本は敗戦後、復興を進めるとともに、それに続く高度経済成長が日本社会を今日のように世界的位置にのし上げてきたのです。

この発展を支えてきたのは島国であったという利点とともに、統一した国家体制がとられたことと自由と平等の社会的風潮により格差の少ない終身雇用制度を維持発展させ国民の安定した生活があったからです。また定年までの無期雇用、基本として1日8時間労働のフルタイム勤務、そして安定した企業に労働者が直接雇用されることにより生活が保障されていたことも一因です。これを前提に労働者は会社の為に一生懸命働き、ややもすると早朝・深夜の時間外や休日に勤務することも美徳とされ、労働することの成果はあまり問われないことで頑張って働いてきました。

近年、情報化社会が到来し、特に海外の情報が入手しやすくなり、国内での日常生活の価値観が様々な影響を受けております。流通体制の進歩により海外から安価な商品が輸入販売されることによる価格の不安定化、ネット通販などの生産者と消費者が直接つながる事による商品の購入体制の変化や国境を越えた取引など、グローバル化が進むことで日本的安定感と価値観の判断基準の変化を伴い、やがて国内の労働者の勤務体制にも変化をもたらしてきました。
無期雇用体制の正社員は、長時間の残業や長期の単身赴任生活などに加え、過酷な条件下で働かせられることになっていた傾向もありましたが、非正規労働者が増加することにより、職種・勤務地・労働時間が限定された勤務形態があらわれ、賃金はもとより職務・労働時間等の勤務態様の正規・非正規労働者間の矛盾が表面化してきました。

また同時に非正規労働者に対して正規労働者と同じ勤務内容や権限を課することも問題となってきています。
その他いろいろ表れてきた労働問題に対する課題を法改正によって解決していくことと、一人一人の労働者が健康で人間らしく継続して働ける労働環境を構築する産業保健の活動が重要であることに気づかされる今日です。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

平成31年(2019年)明けましてお目出度うございます。
昨年(平成30年)に「働き方改革」を推進するための関係法律の整備に関する法律が成立しました。

この整備法の内容には、フレックスタイム制の運用の見直し、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の確実な取得の仕組みの導入、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を5割以上にしなければならない等がありますが、その他に、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法に「勤務間インターバルの設定」が努力義務として示されました。勤務間インターバル(終業時刻と始業時刻の間に一定時間の休息を確保すること)を設定することにより、労働者が十分な睡眠時間や生活時間を確保し、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を保ちながら健康で働き続けることが可能となることを目指しています。

労働時間については、軽作業、重量作業などによる身体的負荷の異なる作業もありますが、就労時間を原則「18時間」とし、それぞれの仕事の状況によって就労時間を変更することにより、作業効率も向上し、健全に労働を遂行できる制度が決められています。また、労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分間の休憩を、労働時間が8時間を超える場合には、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないとされており、作業途中で体力や心身の快復を可能にするように決められています。

休息時間としての勤務間インターバルは911時間が提案され、この間で心身の疲労などが回復することを期待し、労働者が就労時間外に仕事から離れて人間らしい日常生活を送れることが重要であると考えられているのです。

この制度を確立することは、健康な生活を送る為にも大変重要なことでもありますが、しかし、休息内容そのものを決めることは困難な為、インターバル時間(休息時間)というように時間のモーメントで制度化するしかありません。

もとより、休息のとり方は労働者によりそれぞれに異なります。
十分に身体をやすめ、睡眠時間をとることが目的なのですが、現実的にはインターバル時間内であっても、家事労働、育児時間、家庭生活、娯楽、スポーツ等のほか日常生活の中には様々な事柄が混在しており、労働疲労の回復だけに使えない場合もあります。

「働き方改革」を考えるとき、労働時間に関する様々な施策に着目しがちですが、労働者の生きる在り方のパラダイムシフト(適切な生き方)もある程度考えに入れた労働対策がとられないと、人生を働くことのみでなく、労働以外の時間も楽しめる充実した生き方が可能にならないと思いますがいかがでしょうか。

今年もさらに産業保健改革が進められることを期待します。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

今年の産業保健対策として「治療と職業生活の両立支援」の取組の普及や職場の体制整備を実践することが注目されています。
今までは、病気になると仕事を控えるように保健指導されてきました。最近の各種の事業場を対象とした調査報告によると、疾病を理由に1ヶ月以上連続して休職した人の罹患している病気は、精神疾患、がん、脳血管疾患等が多いとされています。以前より、高血圧症、糖尿病、慢性の腎臓病、肝臓病、及び腰痛などの筋骨格系疾患などに罹患している労働者は、医療機関に通院・治療しながら業務に影響させないようにして仕事に従事していました。

現在は、医学、医療の診断技術や治療技術・方法の進歩に伴い「不治で重篤な疾患(がんや難病など)」は、完治はしないが「治療をしながら長く付きあう病気」となっている例が多くなり、入院ではなく医療機関に通院しながら仕事を続けることが可能となっています。その中でもまず、2060歳代の労働者が多く診断される「がん」について、職場環境を整えて対応する取組が進められています。
これは、労働人口の減少対策にもなるし、労働者の仕事を奪うことによる生きがいをなくしたり、収入減による生活不安などを取り除くメリットも考えてのことと思います。たとえ「がん」に罹患しても適切な治療を受け、管理を行えば、労働可能な体力と精神力を維持しつつ、勤労者として長期間勤務が可能な時代を実現しようとしているわけです。

このための前提として、がん等の病気は発見の時期が遅れ重症化してからでは、就業可能な治療を受けたり、体力を維持することが困難となる場合もありますので、早期の発見が必要です。
まず、がんの発生要因となる作業環境を整備し、要因をなくす第一次予防が最も重要であり、次に早期発見、早期治療とする第二次予防が重要となります。
このために定期的にがん検診(健診)を実施し、受診することを勧めていますが、がん検診には「百害あって一利なし」とある医師が週刊誌に報告し話題となりました。
この医師が、がん検診を否定している理由はいくつかありますが、その中の一つに早期に発見されたがんは「がんもどき」であると、がん検診で発見されるがんが早期であることに疑問を呈されています。検診発見がんが早期な状態である理由を述べてみます。一般に健康診断(検診)はスクリーニングと言われ、①異常のない健常者、②疾病前状態の罹患が疑わしい者、③疾病罹患者(早期であることが望ましい)をふるい分ける方法であります。
現在の医療の進歩は、がんの診断技術に目覚ましい進歩をもたらし検査手技も進歩し、苦痛を少なくして実施でき、健康状態(無自覚な時期)で前がん状態などを含め、早期(初期)の状態で(疑わしいがんも含め)ふるい分け可能となりました。
しかし、やむを得ませんが、②のがんが疑わしいと思われた人は、③の予見も考慮する必要があるため検診後定期的に医療管理が必要となるのです。ですが、この状態は「がんである」との確定診断ではありません。
このため自覚してから発見されるがんよりも時期が早く発見されるので、当然、「がん検診発見がん」は早期のがんが多くなり、結果的に治療開始もより早くなり、治癒可能であったり、患者の生存期間も長くなるのです。

また、スクリーニングで発見されたがんは年一回など定期的な期間を置いて実施されるいわゆる集団検診(あるいはドック健診)等の機会に発見されるので、経過の長いがんが発見される傾向があります。よって発生後23ケ月に急性増悪し医療機関で受診し発見されるがんよりも生命予後(治療後の生存期間)が良いがんを治療することになります。

がんはその発生原因や進行速度が不明なことが多いので、検診を受けてご自分の健康管理につなげてください。がん検診発見がんには以上のような特性や利点がありますので、積極的に検診を受診されることを勧めます。

がんになっても治療と職業生活を両立させるためには早期に発見され、良好な予後であることが必須条件ですので、両立支援の主旨が適切に理解され、健康経営の促進のためにもがん検診が普及されることを期待します。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

保健指導や健康診断の結果を踏まえ、受診者(労働者)に対して熱心に毎回運動やスポーツを勧める理由について述べてみます。
運動は病気の治療方法のうち、薬物療法、手術療法、食事療法、精神療法等とならび『運動療法』の一つとして活用されています。
特に健康増進はもとより国民病といわれる生活習慣病などの予防、治療、リハビリテーションに利用されるようになりました。
更に一部の疾患については運動療法、運動指導(機能訓練、物理療法など)を勧めます。これは医師が病気の治療後に医療費を請求する診療報酬の中で、薬の処方や手術料と同じように保険点数(月1回 1000円など)として認められるようになっているからです。

運動と医療(病気やケガを治すこと)が結びついたのは古代のギリシャやローマ時代において、人間の健康維持や病気の治療にランニング・レスリング・乗馬などのスポーツや運動が利用されていた頃からと言われています。
そして、以前より数多く「運動は健康を維持するために必要である」、「運動は体の各部分に適切に刺激が加わらなくてはならない」、「健康な人は規則正しく運動をすることが必要である」、「病気の回復期の患者においても必要に応じてそれぞれの体質に応じた特殊な運動を処方することが必要である(リハビリテーションなど)」、「特に座ったきりの生活をしている人には運動が必要である」と言われたり、そうした内容が書物に報告されています。

運動療法は主に患者を対象に考えられていて、現在の病気がどのような状態であるか、あるいは機能的に運動に耐えられる状態であるかを判断し、特に運動負荷の影響を受けやすい心臓、呼吸、神経機能、運動器官(筋肉・関節など)、その他に肝臓や腎臓などの機能を見極めて行うことが重要となります。
現在では運動が生体にどの程度負担をかけるのかが科学的にも解明されてきたので、病気の治療にも積極的に活用されています。よって言うまでもなく健康な人や日頃労働に従事している人には、健康経営のためにも運動は健康増進・病気の予防、病気の増悪予防、リハビリテーションに必要なことであり、活用する目的に応じて理想的には、運動処方を作成し実践することが望ましいと考えます。

まず手始めとして積極的に30分以上汗をかく程度の速さで歩くことです。はじめは少しづつ行い、3日でやめないで7日続けるようにがんばり、それが習慣となり行うことで、苦にならなくなったら成功です。
このように努力しても目に見えた成果はすぐには現れないのですが、身体機能は疑いなく改善されています。
努力しなければ何も生まれないことを心に強く思ってがんばりましょう。