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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新年度が始まりました。新しく採用されました新入社員の皆様、御就職おめでとうございます。

すべての労働者は職業生活の全期間を通じて、労働基準法および労働安全衛生法などの労働関係法令によって健康で安心して働くことができるよう、健康の確保のための施策が執られることになっています。労働者の健康管理を実施するために、産業保健という医学・医療・保健分野があります。これは単に労働者の健康・安全管理について業務を実施するのみでなく、社会・経済・文化などを総合的に考慮して労働者の健康を確保することを目指しています。

鳥取産業保健総合支援センターは、産業保健分野について国が立案して実行する施策に関連した事業の内容を紹介・解説したり、健康相談事業や産業保健関連従事者、労働者を対象とした研修事業などを実施しています。産業保健分野に関する事項は、作業管理、作業環境管理、健康管理など多岐にわたっています。

今月は、事業場で健康管理を実施するために、いま世界が直面している新型コロナウイルス感染症について、労働者が知っておかなければならない内容の一部を解説します。

コロナウイルスはエンベロープという膜に覆われていて、この膜に太陽のコロナ様の蛋白質がスパイク状に着いています。これが人間などの宿主細胞側のACE2受容体(気道粘膜細胞の表面に多くある)と結合して、人の細胞内に侵入して感染をおこします。またコロナウイルスは比較的容易に変異しやすいmRNAウイルスですので、人体にできた生体防御をする抗体を回避して感染を拡大し、地球上でいつまでも一定の感染者数を維持しながら変異株コロナウイルスとして常在流行することが懸念されます。

感染拡大の最大の要因は無症状者(健康保菌者)や症状の軽い人が自由に移動することによっておこることなどが考えられています。人から人への感染は病気の発症前2~3日前からおこるとされています。これらの人が発症前に家族などの近親者と接したり、飲食店などで宴会に参加し、密となり、クラスターを発生させます。また、御見舞い等で高齢者施設を訪ね、そこで感染弱者に感染が広がり、重症患者が発生することになります。このことが危惧されますので、新入社員歓迎会などは自粛された方が良いと思います。

新型コロナウイルスは、感染症法の指定感染症と位置付けられているので、法律に則り、必要な措置が実施されます。発病者はもちろんPCR検査陽性者も隔離処置が必要です。行政(保健所など)は濃厚接触者について調査を行います。労働者が濃厚接触者になるとPCR検査(ウイルス遺伝子を保持しているかどうか確定する)を受けることが指導されます。陽性と判定されると労働者自身も隔離措置がとられ、会社、仕事場および同僚などに迷惑をかけることになります。会社員としての自覚をもち、意識を変えることと行動の変容が必要です。

たとえば感染を広げないために日常的に3密を避け、飛沫感染を予防するためにマスクを着用すること(コロナウイルスが唾液の中に生存し、感染者と会話すると5㎛以上の唾液粒子が飛沫として飛散するので、不織布マスクを着用することは飛散を減少させます。)は、自分が感染しないことだけを考えたものでなく、人に感染させないエチケットです。

感染拡大の予防のためにワクチン接種が行われています。しかし前述のように変異株が多種流行していますので、今流行しているコロナウイルスに対する抗体が確立されたとしても変異株ウイルス感染予防・重症化防止にどれだけ効果があるのか分かっていません。またウイルスがヒトの免疫を回避した場合も考えられるので、ワクチン接種にたよらず、感染拡大予防のための基本的な予防行動を行うことが大切です。

職場で従業員みんなが正しい理解を進め、職場の感染予防対策の良い実践訓練となることを期待しています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルス感染症の予防と感染拡大のために新しく開発されたワクチンの接種が、令和3年2月から政府の対策として国民に実施されています。

まず海外で開発されたワクチンですので、日本において接種予定のすべてのワクチンの有効性、安全性などが認可されることが必要です。その上で国民に接種が開始されると考えています。接種の方策の一つとして、事業場で産業医等から労働者へ予防接種をすることが話題となっています。急に産業保健分野の業務と関連するような雰囲気になったので種々の課題について述べてみます。

従来より事業場において、主に労働者の感染を防止するために予防接種が行われています。例えば、季節性インフルエンザの予防のためであったり、個人防衛を目指して医療従事者などに肝炎ワクチン接種を行っています。(医療従事者が肝炎に罹患した場合は、就労に起因されると認定されると労災認定となります。)

現行の予防接種は、被接種者に対して「受けるように努めなければならない」という努力義務となっています。そして国および地方公共団体は国民に対し、予防接種について対象疾病の特性、接種の必要性および有効性、その他について啓発する必要があるとされています。今回の新型コロナウイルスのワクチンについては、海外で開発され、今までのワクチンのように生ワクチンや不活化ワクチンとは製造過程が異なり、ウイルス遺伝子の一部を増幅してつくった蛋白を活用したワクチンですので、有効性(抗体産生能とその持続性はどれだけあるかなど)や長期、短期の副反応の程度(身体影響および発がん性の有無)など未知のことが多く、国はこれらのことを科学的に明らかにし、説明することが必要です。

事業場のBCP(事業場で労働者自身の感染予防と同僚への感染拡大を予防して事業の継続を可能にすること)のためにも、事業場単位の接種は必要なことであります。また、このことにより事業場内のみでなく、社会全体の拡大防止につながると思います。しかし、事業場での予防接種が実施されるのであれば、産業保健で取り扱う安全配慮義務の一環として、労使でワクチン接種について意義などを共有することが必要であります。健康でかつすでに抗体を保有しているかもしれない労働者に接種することになりますので、ことさらに安全性については留意することが必要ですし、副反応が発生した場合の責任のあり方等については明確にしておくことが肝要です。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策を法的扱いにするため、暫定的に昨年1月に「指定感染症」に位置付け、今日まで対策を行ってきました。しかし感染が拡大し続けているため、政令を改正し、その暫定的措置を来年の1月末まで延長しました。この政令により、感染者(PCR検査陽性者など)となると、当局は無症状の者でも入院勧告や就業制限ができる(強制ではない)ことや医師による感染者発生の届け出などが必要となり、検査や治療が公費負担となります。政令が延長されたのは、指定感染症でなくなると、感染の広がりの把握が困難になることや入院措置がとれなくなり、コロナウイルス感染の蔓延に歯止めをかけることが難しくなると思われるからです。

しかし、入院措置をとるためには陽性者を医療機関等に受け入れる体制が整っていることが必要ですが、感染症患者用の病床は今までに十分に設置されているわけではありません。また、医療従事者も感染症対策の知識を十分に熟知しているわけではありません。病床やそのためのスタッフを確保することはたやすくなく、患者が増加すれば病床が不足することはいうまでもありません。

また、外出自粛や3密(密接、密集、密閉)にならないように要請しても感染拡大は進み、感染者の多発地域を中心に全国バラバラに緊急事態宣言を出しても効果を期待するのは難しいと思われます。また、20時以降の会食制限ではコロナは昼間も活動していますし、4人以下でも接触したり、飛沫を受ければ感染しますので終息は困難です。

もともとウイルスは地球上の生命体の誕生とともに存在していて、人類の遺伝子にもウイルス由来の塩基配列が組み込まれていることが分かっています。自立的に自己増殖できないコロナウイルスは人類や他の動物に感染・寄生し、宿主(人間)と適切に共存を図るときに良好な関係で共生できます。しかし、今回は中国から発生したといわれていますが、コロナウイルスが宿主を攻撃するような変異株(自然又は人為的?)に変化し、人類はウイルスを撲滅するように治療薬を開発して対抗しようとしますが、RNAウイルスは耐性株に変異し、さらに毒性の強いウイルスに変わり活動を続けます。流行は続き、第3波のあとには変異株をもったコロナウイルスによる第4波がおこることが予測されます。我々人間(宿主)は、ウイルス攻撃に耐えるため体内に抗体を確立して可能なかぎり長く免疫を維持し、世界の人々に集団免疫ができることを期待するしか解決の道はありません。

各事業場においては健康診断を受けて体調をチェックしておくことと、健康づくり(運動、休養、栄養)を労働者にすすめ、自らが日常より健康管理に努めるようにしましょう。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新年あけましておめでとうございます。

新型コロナウイルス感染症は、1年以上を超えて流行の勢いが衰えません。流行の第3波は2020年12月末日まで拡大を続け、いつピークアウトするか、また第4波があるのかないのか予測がつきません。

新型コロナウイルス感染は北半球において夏期にも流行し、今までのインフルエンザなどのような気温、湿度などが影響する季節性ウイルス感染の流行とは様態が異なっています。また人の細胞への感染も特徴的であることが分かり、新型コロナウイルス感染は、コロナ突起を切断、融合して受け入れやすくする蛋白質(ACE2)を細胞表面にもつ嗅覚や味覚、肺・小腸・脳の細胞に侵入して感染することが明らかになってきました。そして仮説ではありますが、重症化には第3染色体(人は46本の染色体をもっており、大きい方から3番目の染色体)の中にある特定の遺伝子群(遺伝子は長いDNAのなかにある1種類の蛋白質をつくる情報をもった一部の塩基配列)が関係しているのではないかと言われています。この遺伝子群は、西欧の民族が受け継いでいて東アジア人には少ないため、欧米よりも日本人は重症化する者が少ないのではないかといわれています。

新型コロナウイルスはRNAウイルスで変異しやすい特徴があり、当初流行したウイルスの塩基配列とは異なるコロナウイルスになっているため、PCR検査の精度に影響を与えるようになっていることも推測されます。潜伏期が長いことなどにより陽性・陰性の判定に影響を与えますし、抗原検査では特異性が低いので精度が悪くなります。

そして、今海外でおこなわれているワクチンの開発は従来のワクチン開発とは異なり、遺伝子の断片を活用したワクチンと言われています。新ワクチンの感染予防効果がどの程度か、副反応がどれだけなのか、安全性がどうなのかが気になります。

今まで日本で開発、接種されている弱毒性ワクチンや生ワクチンは、開発に少なくとも数年を要します。接種後の副反応や障害の発生には数年の長期にわたる観察期間を要し、安全性を確認して使用されていますので、新しい技術で開発されたワクチンがどこまで信用できるのか気になります。当初より科学的(疫学的)流行予測がむずかしく、治療薬もなく、新型コロナウイルスに対する集団免疫(理論上は人口の約半数以上が抗体を保有する)が確立されることにより終息することが期待されました。

また不正確ではありますが、インフルエンザワクチンの接種は被接種者の免疫システムを鍛えて病原微生物(ウイルス、細菌など)による感染に免疫性を発揮する交差免疫ができることも期待されますので、これから同時流行する2つの感染症の予防のためにインフルエンザワクチンの接種をお勧めします。第3波がいつまで続くか分かりませんが、集団免疫ができるまでは、日常的にマスクを着用し、外出および移動の自粛と3密をさけて予防にこころがけましょう。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

厚生労働省は令和2年3月に「エイジフレンドリーガイドライン」を策定しました。策定の背景には、60歳以上の高齢労働者が増加しており、高齢労働者の雇用にあたって、転倒災害、墜落、転落災害などの防止を図るために職場環境改善の取り組みが必要となっているからです。

人間は「立つ」「歩く」という直立二足歩行を基本的な移動様式とする動物です。直立二足歩行は前方に倒れるようにバランスを崩して、踏み出し、遊脚を接地して前進する不安定な移動様式です。もとより二足で直立することもバランスを崩しやすいので立位作業などによって労働者が転倒したり、それによって骨折することは回避しにくいことです。さらに高齢者になると、筋力の低下(フレイル)、認知機能の低下、視力の低下、聴力の低下、動作時のバランス機能低下、立ちくらみがおこるなど転倒リスクが増加します。

転倒をおこす出来事は、①服の裾がひっかかる ②じゅうたんや座布団の端につまずく ③踏み台にのってバランスを失う ④階段を踏み外す ⑤床で滑る ⑥頭の上の棚に頭をぶつける ⑦ベッドから落ちるなどがあります。このため、作業環境改善こそがこういった出来事を予防するのに必要です。今までも作業安全を目的に改善が行われていることはありますが、労働者のバランス機能維持や自分の機能の認知を促す対策は少ないと思います。そのため職場において、健康診断の機会などに次のような体力チェックを取り入れることが大切です。

体力チェック項目は簡便にできる①握力検査(持っているものを落下させたり、下肢筋力低下により転倒しやすくなるので、直立して測定して全身の筋力状態を知る簡単な方法です) ②開眼片足立ち検査(65歳で片足時間が60秒以上できれば合格とする) ③10m障害物歩行検査 ④重心動揺測定などは時間もあまりかかりませんのでおすすめです。

また主に座位の事務作業の人には①立ち上がりテスト(40㎝の椅子に座って片脚で立ち上がる、左右の脚で3回ずつ) ②踵上げテスト(立位でゆっくり踵を上げ下げする、20回を1日1~2セット行う) ③壁ストレッチテスト(壁を背にして立ち、背中をそらし、両肩、手を挙上させて壁に近づけて静止する、10秒間を10回) ④ウオーキング(姿勢と速度が重要で、廊下や庭など2分間やや速歩で歩幅を広めにして、姿勢を保ちながら1回以上行う)など、工夫すると種々ありますので職場の皆さんで一緒に実行して下さい。

これらはロコモティブシンドローム(運動器官の障害によって移動機能が低下した状態)の予防、運動機能療法で行われているリハビリテーション項目の一部で、手軽に実施でき、おすすめです。

若い労働力不足を高齢労働者の労働力で確保するため、またエイジフレンドリーガイドラインの主旨を可能にするために身体機能チェックを実践しましょう。